2020 Fiscal Year Research-status Report
32億年前に縞状鉄鉱層を形成した微生物生態系の解明
Project/Area Number |
19K15486
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
大友 陽子 北海道大学, 工学研究院, 特任助教 (80612902)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | Organic matter / Origin of life / Moodies Group / Barberton / Great Oxidation Event |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、32億年前の縞状鉄鉱層に含まれる炭素質物質の分析から大酸化イベント前の縞状鉄鉱層形成に関与した微生物及び共生微生物相を明らかにすることである。令和2年度の課題は炭素質物質の構造・同位体組成から微生物種に制約を与えることであった。南アフリカバーバトン緑色岩帯・ムーディーズ層群に属する鉄鉱層からマイクロサンプリングにより有機物を直接採取してシリコンウエハーに乗せ、フーリエ変換赤外分光光度計 (FT-IR)による官能基の同定を行った。分析の結果、この有機物はC-N結合を含む官能基を有していることがわかった。またコンタミネーション評価のため、両面研磨薄片を用いて透過光により岩石内部にある有機物の分析を試みたが、十分な輝度のスペクトルは得られなかった。同試料に対して顕微ラマン分光分析を行ったところ、スペクトルには熟成を受けた有機物に特有のG、D1ピークが確認されたが、一般的な太古代有機物に比べピークの分離が悪く予想よりも熟成度が低いことがわかった。マッピング分析では、マグネタイトに富む層に比べ粘土鉱物に富む層に有機物が濃集している様子が確認された。一方で、集束イオンビーム装置により有機物から薄膜を作製し、透過型電子顕微鏡 (TEM)及び走査型透過X線顕微鏡 (STXM)による観察分析を行った。TEM観察では有機物の回折像が未熟成のケロジェンに似ているがc軸方向の配列が不規則であることが明らかになった。STXMでは有機物が窒素を含む官能基を有しており、グラフェンシートが卓越した構造を持つことがわかった。本試料に対して全岩による窒素安定同位体の段階燃焼分析を行ったところ、+5per milの値を示した。これは当時の海洋に硝化/脱窒による同位体交換を起こすような酸化的環境が広がっていた可能性を示唆しており、有機物は酸素存在下で繁茂した微生物の痕跡であったと推定される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度の課題は炭素質物質の構造・同位体組成から微生物種に制約を与えることであり、具体的にはFT-IR及び顕微ラマン分光分析による炭素質物質中の官能基の同定、二次イオン質量分析法による窒素同位体マッピング及び高感度同位体分析を予定していた。FT-IR及び顕微ラマン分光分析は予定通り進めることができた。二次イオン質量分析法による窒素同位体分析は昨年度より予備分析を行っていたが、試料の組成と装置の機能上の限界により正確に測定できないことが明らかとなった。その代わりに窒素の段階燃焼分析を行うことにより、試料の窒素同位体組成を測定することとした。コロナ禍による共同施設の閉鎖で一部の電験観察は滞ったが、TEM及びSTXM観察を追加で行うことで、有機物の結晶学的特徴が明らかとなったため、全体として順調に進展しているといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和3年度の課題は、2年に引き続き炭素質物質の構造・同位体組成から微生物種に制約を与えることである。FT-IRについては北海道大学創成研究機構及び低温科学研究所所有の装置の使用許可を今年も頂いている。また顕微ラマン分光は所属研究室に導入されており、昨年度同様分析を進める予定である。また十分なデータが整いつつあるため、学会発表や関係研究者との議論を通して論文の執筆・投稿を進める。
|
Causes of Carryover |
昨年初頭に本研究対象地域における国際掘削事業が採択されており、計画が順調であれば南アフリカでの野外調査や海外での研究打ち合わせを行う予定であった。しかしながらコロナ禍で関係国の研究費採択が遅れ、かつ海外渡航ができない状態となったため、昨年度使用できなかった旅費を本年に繰り越して海外調査費に充てる。掘削は本年8月から来年2月の間に行われる予定であり、現地での掘削作業やロギングの様子の視察、掘削終了後のドイツでのサンプルの分配に参加するため海外旅費が必要である。
|