2019 Fiscal Year Research-status Report
蓄熱性低分子の冷結晶化における相転移のナノプローブ熱分析
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19K15687
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
本田 暁紀 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 産総研特別研究員 (10812977)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 冷結晶化 / 色素分子 / 低分子 / アルキル基 / 蓄熱 / 走査型プローブ顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
DPP色素分子のアルキル誘導体が示す蓄熱現象を、高空間分解能で解析した。アルキル置換したDPP色素分子は、分子中のフェニル基とアルキル基の高い運動性によって冷却時の結晶化が阻害され、過冷却現象を起こす。その過冷却分子を加熱すると発熱を伴って結晶化が起こり、その現象を冷結晶化と呼ぶ。更に加熱を続けると、結晶の色が黄色から赤色に変化しつつ発熱が起こる。この過冷却(蓄熱)を経た後の二段階発熱は、これまでに示差走査熱量測定(DSC)や光学顕微鏡を用いて解析を行ってきた。本研究では、走査型プローブ顕微鏡(SPM)を用いた微視的視野での熱分析を行った。 既存のSPM装置に熱分析ユニットを導入して、走査型サーマル顕微鏡(SThM)を構築した。試料に触れて形状と温度を計測するためのカンチレバーには、針先に抵抗温度センサーが備わったものを用いた。試料の温度に応じて変化する針先の抵抗値をリアルタイムで計測する機器を作製し、SPM装置での形状測定と同時に試料表面の温度を計測して表示する装置系を構築した。その装置を用いて、アルキル置換DPP色素の発熱現象をマイクロスケールで観測した。形状測定の結果から、冷結晶化で生じた黄色結晶と比較して、二段階目の発熱で生じる赤色結晶の方が、より結晶性の高い綺麗な表面構造を有することが分かった。この黄色から赤色結晶への転移において、形状変化と同時に表面温度の変化も計測した。その結果、大きな結晶が生じる領域において、より大きな発熱が起こっているような温度データの変化が観測された。 また、次年度に微視的な熱計測を行う予定のアルキル置換アゾ色素について、冷結晶化を含む熱挙動を解析した。DSC測定および光学顕微鏡観察により、冷結晶化の起こる温度域や条件、冷結晶化が起こった際の巨視的な見た目の変化などを計測した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の熱分析を行うための装置系は、標準試料において明瞭な形状および温度像が得られたため、自作部分も含めて構築に成功したと判断できる。そして、研究対象であったアルキル置換DPP色素分子においても、二段階目の発熱の熱分析を行うことに成功した。その成果により、学会発表も行った。また、カンチレバーを試料に当てる際の触圧・熱抵抗センサーに印加する電圧の大きさ・走査速度、などの熱計測における条件の絞り込みも行うことができた。 次年度に向けたアゾ色素の熱分析も概ね順調であり、得られた成果を基に論文投稿の準備中である。光学顕微鏡による解析の結果、生じる結晶のサイズが温度条件の違いに応じて変化することが分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
アルキル置換DPP色素分子について、二段階目の発熱の解析を継続する。再現性の確認・より分解能の高い温度変化像の取得を目指す。また、一段階目の発熱の熱分析を行う。過冷却液体から固体への転移のため、カンチレバーの触圧などの条件設定の難易度が高いが、これまでに蓄積した測定条件を基に、条件の最適化を行う。黄色から赤色結晶の転移における表面構造の変化をナノ・マイクロオーダーで観測することに成功したため、温度条件の差異に応じた結晶サイズの変化を観測する。その結果から、加熱により生じる結晶のサイズと温度変化の相関について考察を行う。 アルキル置換アゾ色素分子について、これまでに行ってきた巨視的な熱分析データを基に、走査型プローブ顕微鏡を用いた高空間分解能計測を行う。様々な分子構造のアゾ色素に様々な鎖長のアルキル基を導入した分子を合成したが、とりわけ温度条件の差異に応じて生じる結晶のサイズが変化する分子について熱分析を行う予定である。DPP色素分子とアゾ色素分子の結果を複合的に考察し、結晶のドメイン分布・結晶化度と発熱量の関係性を明らかにする。そして、冷結晶化による蓄熱効率が最良となる結晶化条件を解明する。
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Causes of Carryover |
消耗品の大部分を占める熱抵抗カンチレバーについて、研究計画の時点で取った見積もり額よりも少々安価に調達ができたため、次年度使用額が生じた。 翌年度は、2種類の分子について熱分析を行うため消耗品の消費がより多くなることが予想され、国際会議や論文投稿などの成果のアウトプットにも注力する予定であるため、それらの経費に使用する計画である。
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Remarks |
[招待講演] 本田暁紀「ナノの世界を見る!プローブ顕微鏡の話」公開講座 坊っちゃん講座、東京理科大学 理数教育研究センター、2019年11月
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Research Products
(1 results)