2019 Fiscal Year Research-status Report
The role of copepods as primary producers of polyunsaturated fatty acids
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19K15908
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Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
壁谷 尚樹 東京海洋大学, 学術研究院, 助教 (90758731)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 多価不飽和脂肪酸 / カイアシ / 生合成 / 不飽和化酵素 / 鎖長延長酵素 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、各種のカイアシにおける多価不飽和脂肪酸生合成能の多様性を確認するため、まずはNCBI等のデータベースに登録されているカイアシ類のゲノムやトランスクリプトームなどの解析データから、多価不飽和脂肪酸の生合成に関わると予測される遺伝子の網羅的な単離を行った。その結果、カイアシ類の中でも特に、Harpacticoida、Cyclopoida、Siphonostomatoidaといった分類群の種において、不飽和化酵素遺伝子や鎖長延長酵素遺伝子のコピー数の増大や、配列の多様化が起こっていることが明らかとなった。Siphonostomatoidaは主に寄生性のカイアシが属するグループであるが、残りの2種は底生あるいは浮游性の種であり、高次消費者の餌生物としても重要であるため、本研究では特に、HarpacticoidaおよびCyclopoidaに属するカイアシに注目することとした。続いて、Harpacticoidaを代表する種として、ゲノム情報やトランスクリプトーム情報が豊富なTigriopus californicusを対象とし、各種不飽和化酵素遺伝子および鎖長延長酵素遺伝子の単離を行った。さらに、得られた遺伝子の機能解析を酵母を用いた異所的発現法により行い、この種がステアリン酸等の飽和脂肪酸からドコサヘキサエン酸(DHA)を含む長鎖多価不飽和脂肪酸を生合成するために必要な全ての遺伝子を保持していることが明らかとなった。また、DHAを一切含有しない微細藻類を用いた予備的な飼育実験においても、本種は数十倍の増殖の後でも、常に同レベルのDHAを保持し続けることが可能であることが示された。さらにCyclopoidaに属する種へと対象を拡大して研究を進めており、DHAを豊富に含むカイアシ類のうち、それら脂肪酸を餌からではなく自ら生合成して蓄積している種を炙り出していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、多価不飽和脂肪酸の生合成能に優れるカイアシ種・分類群の炙り出しは概ね終了し、今後はデータベースに新たな種が追加された場合に、状況に応じてさらなる解析を進める予定である。また、少なくともHarpacticoidaの一種であるTigriopus californicusにおいて、非常に高い多価不飽和脂肪酸生合成能を確認しており、Cyclopoidaにおいても同様の活性が期待できる結果が一部得られているため、これら生物は単純に餌から得た多価不飽和脂肪酸を蓄積するだけでなく、状況に応じて自ら生合成を行うことが可能であることが示された。これは、海洋生態系においては、微細藻類が多価不飽和脂肪酸の大部分を産出し、消費者はそれを蓄積・利用しているに過ぎないという従来の説に一石を投じる結果である。一方で、その生合成能が実際どの程度生体内に蓄積する脂肪酸の組成に影響するのかは未だ解析途中である。エイコサペンタエン酸(EPA)やDHAを含有しない各種微細藻類を用いた予備的な給餌試験から、Tigriopus californicusはどのような脂肪酸組成の餌であっても常に一定のEPA・DHAレベルを保ち続けることが可能であることが明らかとなった。しかし、微細藻類を用いた実験では、上記カイアシ類の保持する最大の特性である飽和脂肪酸からの多価不飽和脂肪酸生合成の効率を解析することができない。これは、微細藻類自体に飽和脂肪酸や、多価不飽和脂肪酸を生合成する過程での中間反応物である一価脂肪酸が多量に含まれているためであり、あらゆる有機物からEPAやDHAを生合成可能と考えられるTigriopus californicusの真の多価不飽和脂肪酸生合成能をin vivoで示すことが難しいのが現状である。そこで今後は、13Cなどの安定同位体で標識された脂肪酸を用いた給餌試験を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
カイアシの餌料として用いる微細藻類には単鎖の多価不飽和脂肪酸(リノール酸など)が必ず含まれており、飽和脂肪酸からのEPAやDHAを含む長鎖多価不飽和脂肪酸生合成の効率を解析することが困難である。そこで今後は、安定同位体で標識された各種脂肪酸からリポソームを調整し、Tigriopus californicusに短期間給餌したのち、ガスクロマトグラフ・質量分析計(GC-MS)を用いて分析することでSFAからの長鎖多価不飽和脂肪酸生合成効率を解析する予定である。さらに、Tigriopus californicus以外のカイアシ類からも各種不飽和化酵素遺伝子および鎖長延長酵素遺伝子の単離を進め、各種微細藻類を用いた給餌試験に加え、上述の13C標識脂肪酸を用いてin vivoでの多価不飽和脂肪酸生合成能の解析を行う。また、各遺伝子の多価不飽和脂肪酸生合成への寄与率を把握するため、RNA干渉を利用したノックダウン実験を行う予定である。実際に、カイアシ類を含む開放血管系の無脊椎動物にはRNA干渉を用いたノックダウン法が有効であることが知られ、Tigriopus californicusにおいてもノックダウンの作出が報告されている。得られたノックダウン系統も、上述の各種飼育実験に供することで特定の遺伝子の多価不飽和脂肪酸生合成への寄与率を考察する。
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[Journal Article] A key metabolic gene for recurrent freshwater colonization and radiation in fishes2019
Author(s)
Ishikawa A, Kabeya N, Ikeya K, Kakioka R, Cech JN, Osada N, Leal MC, Inoue J, Kume M, Toyoda A, Tezuka A, Nagano AJ, Yamasaki YY, Suzuki Y, Kokita T, Takahashi H, Lucek K, Marques D, Takehana Y, Naruse K, Mori S, Monroig O, Ladd N, Schubert CJ, Matthews B, Peichel CL, Seehausen O, Yoshizaki G, Kitano J
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Journal Title
Science
Volume: 364
Pages: 886~889
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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