2020 Fiscal Year Research-status Report
細胞の分化状態を操作できる系を用いた植物の再生メカニズムの解明
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19K16167
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
安居 佑季子 京都大学, 生命科学研究科, 助教 (90724758)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 苔類ゼニゴケ / 幹細胞 / 再生 |
Outline of Annual Research Achievements |
植物の再生能は非常に高く、多くの植物は切断部に新たな器官を形成したり、場合によっては新たな個体を再生することができる。陸上植物進化の基部で分岐したコケ植物苔類ゼニゴケは非常に繁殖力が強いことで知られているが、その主な要因として、栄養繁殖を活発に行なうこと、再生能が高いということが考えられる。ゼニゴケは栄養成長期においては、杯状体と呼ばれる器官を作り、その中にクローン個体である無性芽を多数生み出す。無性芽は植物の成長点であるメリステムを保持しており、すぐに成長を開始することができる。一方、再生では、メリステムを失った植物組織から、新たなメリステムが生み出され成長を再開する。つまり、どちらもメリステムを新たに作るプロセスを含む現象である。 これまでに、杯状体と無性芽形成のマスター制御転写因子であるGEMMA CUP-ASSOCIATED MYB1 (GCAM1) とそのホモログGCAM1 LIKE (GC1L)に着目し研究を進めてきた。gcam1 gc1l二重変異体と、強力な転写抑制ドメインSRDX とGC1Lの融合タンパク質を誘導的に機能させることができる株を用いた解析から、GCAM1とGC1Lが再生を正に制御していることを明らかにした。またGCAM1とGC1Lはどちらも異所的に過剰発現することで、未分化性を持つ細胞を増殖させることから、GCAM1とGC1Lは再生に必要な未分化細胞を生み出す機能を持つと考えられる。昨年度は、再生過程におけるGCAM1とGC1Lの発現解析と、メリステム制御に対する機能解析を中心に進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまでに、GC1L-SRDXをgcam1変異体背景で機能誘導すると、メリステムを切除した切断面からの再生が著しく阻害されることを示していた。昨年度は、より詳細な解析を行なうことで、GC1L-SRDXの効果を定量的に示した。また、gcam1 gc1l二重変異体において、著しく再生が抑制されるという表現型に加え、二重変異体ではメリステムの形態にも異常が生じるという表現型を見いだした。形態異常が生じたメリステムからの植物の成長スピードは著しく遅くなり、幹細胞の維持ができなくなるメリステムも存在していた。これらのことから、GCAM1とGC1Lはメリステムの維持にも重要な機能を持つことが考えられた。 また、GC1Lの発現がメリステムの切除後上昇することがRNA-seqの解析からこれまでに示唆されていた。そこで、時空間的な発現パターンを明らかにするため、GC1Lプロモーター領域にレポーターとしてGUSを連結させたコンストラクトを植物体に導入して解析を行なった。しかし、この株においては、実験手法上の問題で、GC1Lの発現パターンを反映できていないことが現在までに示唆されている。今後は、別のレポーターを用いることでGC1Lの発現パターンを明らかにすることを考えている。また、GCAM1の発現パターンについても現在詳細な解析を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、まずGCAM1とGC1Lのメリステム除去後の再生プロセスにおける発現パターンを明らかにする。それぞれのプロモーターレポーター株における解析と、経時的な切断面におけるサンプリングを行ない、定量的にこれらの発現量を解析する。また、GCAM1とGC1Lは再生過程において未分化細胞を増殖させる機能を持つことが考えられている。このため、gcam1 gc1l二重変異体やGC1L-SRDXを用いてEdU染色を行なうことで、分裂活性を持つ細胞を可視化する。また、再生することがわかっているそれぞれの単一変異体でも同様に解析し、野生型との比較を行なうことで、それぞれの再生に対する機能の寄与を明らかにする。 また、異所的なGC1LまたはGCAM1の機能誘導の研究から、GC1LとGCAM1により誘導される細胞塊は性質が異なることをこれまでに示唆している。そこで、これらの細胞塊の性質の違いを詳細に解析する。さらに、現在、これまでに行なったRNAseq解析のデータからGCAM1とGC1Lの下流遺伝子の有力候補の絞り込みを行なっている。今後は、これら遺伝子の機能を個別に調べると共に、GC1LとGCAM1の下流でどのような遺伝子群が動き、再生という現象が起きているのかを明らかにする。
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Causes of Carryover |
今年度行った解析の中で予想していたことと異なる結果が一部生じたため、一部の研究計画に変更が生じ、その検証実験を次年度に行なうためその分の研究費を次年度使用とした。また、参加を計画していた学会がオンライン開催になったため、旅費の使用がなくなった。次年度に行なう研究に関わる研究打ち合わせの旅費等に充てる予定である。次年度は、現在解析中の実験を完結させると共に、本研究成果をまとめ論文に投稿する予定である。
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