2020 Fiscal Year Research-status Report
円口類ヌタウナギの体液調節機構:適応戦略を決定する分子基盤の解明に向けて
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19K16178
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
山口 陽子 島根大学, 学術研究院農生命科学系, 助教 (70801827)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ヌタウナギ / 環境適応 / 体液調節 / 内分泌系 / 下垂体 / 心臓 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、円口類ヌタウナギにおける個体・細胞レベルの体液調節機構とその内分泌制御について検証することを目的とする。昨年度はアミノ酸輸送体、ナトリウム利尿ペプチド受容体や下垂体後葉ホルモン受容体の局在を明らかにしたが、これに加えて本年度は下垂体前葉から分泌される成長ホルモン(GH)に着目した。GHは近縁なプロラクチン(PRL)とともに魚類の体液調節ホルモンとして知られ、それぞれ海水または淡水適応を促進する。ヌタウナギを含む円口類はGHのみをもつことが報告されているが、その機能は不明である。 本研究ではヌタウナギから1種類のGHR(ebGHR)を単離した。既知GHRおよびPRL受容体と比較して、ebGHRは構造的にこれらの中間的な特徴を示した。qPCRによる組織分布解析では、ebGHRのmRNA発現レベルは肝臓で最も高く、これは他の脊椎動物と共通する。加えて脳、下垂体と心房でもmRNA発現が見られたが、鰓、腎臓や心室における発現は低いレベルに留まった。in situ hybridization(ISH)による局在解析では、脳の手綱でシグナルが見られたほか、下垂体前葉と心房でまばらなシグナルが観察された。 今回得られた結果の一部はこれまでの後葉ホルモン受容体の解析結果と一致し、脳や心臓がヌタウナギ下垂体ホルモンの重要な標的器官であることを示す。一方で、後葉ホルモン受容体は心房だけでなく心室でも高い発現が見られるほか、下垂体前葉に一様に発現するなど、GHRとの相違点も存在する。今後これら受容体が各組織においてどのような機能分子と共局在するかを調べることで、本種における既知体液調節ホルモンの機能を理解することが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
予定していた研究計画のうち、特異的抗体の作製は現時点で実施できていない。これは主に新型コロナウイルス感染拡大の影響による。2020年度前半には大学の一時閉鎖や在宅勤務の要請等により研究活動が制限された。また、授業科目のオンライン化や学生対応といった学内業務負担が大幅に増加した結果、研究のエフォートを圧迫した。ただし、「研究実績の概要」および「今後の研究の推進方策」に記載した通り、今後は抗体による免疫組織染色に代わり蛍光多重ISHを中心に進める。
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Strategy for Future Research Activity |
予定していた特異的抗体作製に代わり、蛍光多重ISHによる機能分子の共局在解析を優先する。 (1)これまでに複数の体液調節関連分子を同定し、脳、腎臓や心臓における局在を明らかにしてきた。当初は抗体を用いた免疫組織化学的手法で各分子の細胞内局在を検証することを予定していたが(下記2を参照)、「研究実績の概要」に記載した通り、各種ホルモン受容体と他の機能分子群との共局在解析を優先すべきと判断した。これは現状のISHシステムに蛍光多重染色法を導入することで実施する。 (2)これまでの結果ならびに上記1で得られた結果から、特に重要と考えられる分子については特異的抗体を作製し、上記1と並行して細胞内局在解析を進める。ただし、市販の抗体でエピトープ配列が標的分子と一致するものがあれば、優先的に使用する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大に伴う移動制限や学会がオンライン開催となったこと等により、旅費が発生しなかった。また「現在までの進捗」に記載した通り、当初予定していた抗体作製を見送ったことも使用額の減少につながった。 次年度使用額は、主として今後実施予定の蛍光多重ISHや免疫組織化学に関連する試薬や機器等の購入にあてることを計画している。また、成果発表費用としての使用も予定している。
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