2021 Fiscal Year Research-status Report
Elucidating effects of management practices on deer by measurements of stable isotope ratio in bone-collagen and carbonates of deer teeth
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19K16238
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Research Institution | Research Institute of Environment, Agriculture and Fisheries, Osaka Prefecture |
Principal Investigator |
原口 岳 地方独立行政法人大阪府立環境農林水産総合研究所(環境研究部、食と農の研究部及び水産研究部), その他部局等, 研究員(任期付) (90721407)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 生態系管理 / 多元素同位体地図 / 化合物特異的同位体分析 / 鳥獣被害 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者の異動先における試料の洗浄・凍結乾燥・粉砕までの試料前処理を迅速におこなう体制を整えた。コロナ禍ほか複数の要因により本研究は計画と比較して遅れているが、反面、研究遂行のために必要な機材の調達・作成と分析プロトコルの確立までは達成することが出来た。このため、2022年度は試料の前処理段階の大半を所属機関内で完結できると考えている。 シカ体組織の炭素窒素安定同位体分析結果を解析する上での基盤として、農作物 (イネ) と調査地に広く分布するシカ嗜好性の野生植物 (ササ) の分析結果より、調査地域 (大阪府北摂地域) におけるシカの餌資源の炭素窒素安定同位体地図 (アイソスケープ) を作成し、シカ糞の同位体比との比較をおこなった。イネの窒素安定同位体比は平均3.1(-0.3 ~ 7.9; 最小値 ~ 最大値)‰、ササは平均-0.6 (-4.3 ~ 4.3)‰を示し、同位体組成のうえで異なる資源として判別されることが明らかになった。また、シカの糞の窒素安定同位体比の変動幅はおおよそ-2 ~ 3‰であり、動物園飼養個体より求めたシカ糞と餌の窒素同位体比の差が1.4~3.4‰であったことから、現生のシカは農作物と野生植物の双方を摂食しているという仮説を指示する結果が得られた。 今後、分析試料を厳選するなどして延長期間内の研究課題の遂行を図る。また、今年度の取り組みを通じて炭素窒素安定同位体地図を活用した生物の食性解析を適用するために必要な要素技術・知見は集積することが出来たものと考えており、炭素窒素安定同位体地図を作成するための供試材料の分析もほぼ完了した。また、本研究を通じて確立した分析手法については部分的に他の対象生物に対しても適用事例を拡げている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
計画立案時、学振特別研究員として多くのエフォートを標記の研究課題に充てられる環境にあったが、2020年度に現所属に異動し、複数の新規課題に着手することとなり、充てられるエフォートが立案時よりも大幅に減少したこと、異動直後に新型コロナウイルス流行に伴う緊急事態宣言が発令され、現所属への一部分析試料および研究機材の移動が大幅に遅延したこと、実験機器の調達・外部機関の機器を用いた試料の前処理に一定の制限が生じたことから、本研究は遅れている。一方、試料切断装置を自作する、研究機関で所有していなかった試料粉砕装置や凍結切片作成装置を別財源で調達するなどして、所属機関で研究を進める体制は大きく改善された。また、シカ歯を切断後に半分を脱灰し、切片作成およびコラーゲンを抽出、残り半分を炭酸塩分析に供するプロトコルを確立しており、測定試料を厳選するなどして、延長期間中に一定の研究成果を上げる事が出来ると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度までの研究によって、現生のシカについては農作物と野生植物の2ソースによるミキシングモデルを構築するために必要な情報が得られた。そこで、イネ・ササのアイソスケープにもとづいて採糞地点周辺の農作物と野生植物の値を決定し、農地へのアクセスしやすさ (近隣農地までの距離) と農作物の利用割合の関係の解析をおこなう。続いて、作成した試料の前処理プロトコルをもちいて歯からのコラーゲン抽出をおこない、炭素窒素安定同位体分析をおこない、糞についての解析と同様に2ソースのミキシングモデルを構築し、近過去試料と現在の試料の比較をおこなう。最後に、歯を粉砕して炭酸塩の同位体分析をおこない、調査地域における生息地域を代表する情報としての酸素同位体比の指標性 (緯度経度ならびに標高傾度との相関性) について検証する。研究実施状況が遅れていることから、炭酸塩の分析については現生のシカより得られた試料に限り、更に、空間的な偏りを可能な限り減らして広域をカバーすることを意図して選抜をおこなったうえで分析する。全体を通じて、1. 齢査定のために試料として数多く保存されている歯試料に由来するコラーゲンの同位体分析によって、近過去のシカの食性が復元されること、 2. 近過去と現在のシカの食生態の変化、最後に 3. 炭酸塩が示す炭素酸素安定同位体比による過去の生息地域・生息環境の指標性の検討までをおこなう計画である。以上のようにして、可能な限り早期に食性解析への同位体地図の応用事例として成果発表へと繋げるよう努める。また、歯試料中の炭酸塩酸素同位体比の分析準備を進め、複数の時空間スケールのもとで生物の生態解明に資する同位体情報の活用について検討する。
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Causes of Carryover |
計画立案時、学振特別研究員として多くのエフォートを標記の研究課題に充てられる環境にあったが、2020年度に現所属に異動し、複数の新規課題に着手することとなり、充てられるエフォートが立案時よりも大幅に減少したこと、異動直後に新型コロナウイルス流行に伴う緊急事態宣言が発令され、現所属への一部分析試料および研究機材の移動が大幅に遅延したこと、実験機器の調達・外部機関の機器を用いた試料の前処理に一定の制限が生じたために研究計画が遅延した。いっぽう、分析手法・試料処理の手順が確立され、試料の前処理に必要な機器はおおむね所属機関で準備することが出来たため、今後分析の準備を進める。よって、2022年度への繰越額は試料の前処理を補助していただく者の雇用と(見込み額:500千円)、分析機器利用実費支払い (見込み額:295千円/「その他」に計上) に使用予定である。
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