2019 Fiscal Year Research-status Report
iPS細胞由来薬物胎盤透過性評価モデルによる包括的医薬品胎盤透過性比較評価
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19K16430
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Research Institution | International University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
池田 賢二 国際医療福祉大学, 薬学部, 准教授 (10434812)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | iPS細胞 / トロホブラスト / 妊娠時薬物療法 / 胎児移行性 / 胎盤薬物透過 / 薬物動態 |
Outline of Annual Research Achievements |
iPS細胞を用いた胎盤薬物透過性モデルの構築に重要なシンシチオトロホブラスト細胞は、Retinoic Acid (RA)刺激により分化することを示してきた。しかしRA刺激のみでは1週間程度しか分化維持できないため、モデルとしての適正に問題があった。そこで安定分化を目的として、スタウロスポリン/デキサメタゾン(St/Dex)を用いた分化条件を検討した。近年iPS細胞からの分化維持条件が確立されている心筋細胞への分化においては、初期段階でWntシグナル経路を活性化させた後、この経路を阻害することによって効率よく心筋細胞に分化することが判明している。iPS細胞の機能細胞への分化は、ターゲット遺伝子の阻害以前に当該ターゲット遺伝子の活性化を伴うことで成熟するものと仮定すると、St/Dexはserbf1a遺伝子を活性化させ、RA添加にserbf1a遺伝子が阻害されるトロホブラスト機能細胞への分化に適正な条件と考えられる。 今回iPSメンテナンス培養のネガティブコントロール群(NC群)とRA刺激によるポジティブコントロール群(PC群)、およびSt/Dex処理後RA刺激群を比較評価した。hCG分泌期間はPC群とSt/Dex処理群で有意差は認められず、分泌期間はRA添加から約1週間程度であった。Day 13のhCG分泌量をELISA法により測定した結果、hCG分泌量はSt/Dex3日間処理がPC群と比べ多く分泌されていた。このことからSt/Dex3日間処理はhCG分泌量を増加させた可能性がある。またSt/Dex3日間処理群の細胞は細胞同士が結合し合胞体を形成している形態変化が認められた。 以上のことからSt/Dex処理処理後RA刺激は分化後の維持期間を延長しなかったものの機能的分化を促進すると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
St/Dex処理群はPC群と同じく1週間程度のhCG分泌能であることが判明し、少なくともPC群に比べてhCG分泌機能における劣化は無かった。また、St/Dex3日間処理後に生体内に類似した合胞体を形成した可能性がある。シンシチオトロホブラスト細胞は子宮内膜に向かって成長し、細胞同士が融合し合胞体を形成する。そのためRA刺激のみの分化と比べ、よりシンシチオトロホブラスト細胞に形態が近いと考えられる。以上のことからSt/Dex処理処理後RA刺激は分化後の維持期間を延長しなかったものの機能的分化を促進すると考えられ、おおむね細胞層としての評価モデル構築は順調に進んでいると判断する。 しかしながら医薬品の胎児移行性評価を行うためには、得られた数値を薬物動態学的に解析する必要がある。現在、胎児循環を含めて薬物体内動態を解析できる良好な数理モデルは開発されていない。今後の課題として世界的に認知されている動態解析ツールを用いた胎児循環数理モデルの開発に取り組む。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、確立したモデルを用いた各種医薬品の胎盤透過係数を得ることによって、新規胎児コンパートメント動態解析法を考案することを目的とする。僅かながら妊娠時薬物動態に関する生理学的薬物動態モデルが検討されているが、満期胎盤を用いた胎児移行性パラメータを用いるしかなく、臨床上妊娠時薬物療法に応用できる動態モデルは未知である。したがって、より妥当性の高い胎児薬物動態モデル解析が必要であり、本応募課題モデルから得られた胎盤透過係数を医薬品の胎児移行パラメータとして算出する解析法を検討する。胎盤透過係数を組み込んだ薬物動態モデル解析、およびモデル評価は、非線形混合効果モデル解析ソフトによって可能である。さらに、これらの解析ソフトで可能な評価法であるモンテカルロシミュレーションなどによって良好なモデルが得られた場合は、操作の容易なTDM解析ソフトの開発に取り組み、実践的なTDMに応用できる妊娠時動態を含めた新規薬物動態解析ソフトを公開するまでを最終目標とする。
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Causes of Carryover |
iPS細胞を用いた胎盤細胞層構築は一定の成果を収め、薬物動態解析のステップに移行したため、今年度は培養関連の費用を削減できた。次年度には細胞層の大量作成、多種におよぶ解析ソフトの導入ステップとなるために研究費を充てることが可能な状況である。
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