2021 Fiscal Year Research-status Report
幽門腺型粘液の糖鎖αGlcNAcの発現低下とがんの悪性化の分子機構の解明
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19K16555
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
山ノ井 一裕 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (80464965)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | αGlcNAc / MUC6 / 幽門腺 / 粘液 / 肺癌 / 腺癌 / filopodia / FSCN |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は、幽門腺型粘液に着目し、特に、がんの発生、悪性化への関与について病理形態学を主軸とした研究を進めてきた。 肺癌は近年腺癌の割合が増しているが、その中でも粘液産生性浸潤性腺癌については、悪性度と相関するマーカーについての十分な知見が乏しい。我々はこれらの多くが胃型粘液を産生することに着目し、MUC6とαGlcNAcの発現と癌の悪性度の相関を調べ、さらに肺癌由来培養細胞を用いて、その生物学的意義を検討した。 肺粘液産生性腺癌の切除検体54例を用いて検討したところ、38例でMUC6陽性を示し、19例でαGlcNAc陽性を示した。αGlcNAcの発現はMUC6の発現部位にほぼ一致していた。発現スコアを比較するとαGlcNAcはMUC6よりも優位にスコアが低く、MUC6陽性癌細胞の多くで、αGlcNAcの糖鎖修飾が消失していることが明らかになった。それぞれの陽性例、陰性例の間における臨床病理学的因子の違いについて検討した。無病再発生存期間を比較すると、MUC6陽性例は陰性例よりも予後が良いことが明らかになった。MUC6の発現そのものが癌の予後に影響を及ぼしていると考えられ、肺がん由来のA549細胞を用い、レトロウイルスベクターにてMUC6遺伝子を導入したところ、癌細胞の増殖能、浸潤能、移動能の有意な低下を認めた。さらに細胞のアクチンフィラメントについて蛍光染色を用いて可視化すると、MUC6導入細胞では、細胞の移動や接着に必要なfilopodiaの低下、喪失があきらかになった。RT-PCRでは、filopodiaの安定化に重要な結合タンパクFSCN遺伝子の転写低下を認めた。 このことから、粘液産生性肺癌では、MUC6発現低下によりFSCN発現、filopodiaの形成により癌細胞の運動能、移動能が増し、がんの悪性化に寄与している可能性が考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していた、肺がんの臨床検体での検討が順調に進んだ。さらに、以前より進めてきた培養細胞株を用いた実験も順調に進み、分子メカニズムについてもその一端が明らかになった。これらの研究結果をまとめ、英文論文による発表を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
培養細胞株を用いた研究にて明らかになったメカニズムについて、再び、病理標本を用いて再度発現を検討し、ヒト検体でも、そのメカニズムを明らかにしていく。
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Causes of Carryover |
学会の多くがオンライン開催となり、特に、海外学会参加のための旅費などが、当初の予定額を大幅に下回ったため、次年度使用額が生じた。 2022年度において、学会参加、論文発表の経費や旅費ならびに、実験器具の消耗品などの費用として使用する計画である。
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Research Products
(5 results)