2019 Fiscal Year Research-status Report
薬剤誘導性にがん変異細胞排除を促進する細胞間コミュニケーション・シグナル
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19K16757
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
鴨下 渚 早稲田大学, 高等研究所, 研究助手 (30835814)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | がん変異細胞 / 正常-変異細胞間シグナル |
Outline of Annual Research Achievements |
1. TMTKが制御する変異細胞側での細胞非自律的なシグナル関連膜タンパク質分子の同定:TMTKによって変異細胞の硬さが亢進するが、この硬さ依存的に周辺正常細胞で誘導されてくる機能未知の膜タンパク質Xを同定した。この遺伝子は、Ig-like domainを有する膜タンパク質であり、細胞内にITIMドメインを有する。このITIMドメインは、チロシン残基がリン酸化されることが知られていたため、このことを基に細胞内シグナルの解明に着手した。まず、非特異的タイロシンリン酸化抗体で同タンパク質が、正常細胞と変異細胞の共培養でリン酸化されるかを検討した。正常もしくは変異細胞の単独培養ではリン酸化が見られないのに対して、共培養特異的にリン酸化が亢進することが確認された。さらに、このリン酸化を認識し活性化することが知られているSHP-2タンパク質に注目した。SHP-2はROCK2経路を活性化する。またこれまでの報告から、ROCK1/2はFilaminの集積を促進することが知られている。正常細胞でのFilaminの集積が、変異細胞の押出に関与するため、SHP-2およびROCK2がFilaminの集積および変異細胞の押し出しに関わるかを検討した。その結果、SHP-2およびROCK2の阻害剤処理は、Filaminの集積および変異細胞の排除効率を抑制した。これらのことから、同定した膜タンパク質Xは、SHP-2/ROCK2経路を介して、変異細胞の排除を促進していることが示唆された。 2. 正常細胞側の細胞間シグナルを担う膜タンパク質Xのカウンターパートを同定する。表面プラズモン効果法よりも簡便かつ安価であり、クルードサンプルからも相互作用解析が可能であるBio-Layer Interferometry法を用いて、1で同定した膜タンパク質のカウンターパートを探索する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. TMTKが制御する変異細胞側での細胞非自律的なシグナル関連膜タンパク質分子の同定:TMTKによって変異細胞の硬さが亢進することをもとに、この硬さ依存的に周辺正常細胞で誘導されてくる膜タンパク質Xを同定している。手法としては、RNA sequencingを基にした手法を用いたが、目的は達成されている。加えて、この遺伝子の機能は未知であるが、Ig-like domainを有する膜タンパク質であり、細胞内にITIMドメインを有することに注目することで、更に下流のシグナル機構についても解明されつつある。すなわち、ITIMドメインのチロシン残基がリン酸化されることは一般的に知られていることであり、このことを基にSHP2/ROCK2経路を介して変異細胞に対する排除能を惹起していることを見出した。このことは、これまでのFilaminの集積機構と一致するものであり、膜タンパク質XがSHP-2はROCK2経路を活性化すると考えられる。このように、変異細胞を認識する正常細胞側の膜タンパク質を同定した例はなく、進捗としても十分であると考えられる。 2. 正常細胞側の細胞間シグナルを担う膜タンパク質Xのカウンターパートを同定する予定であるが、予定どおり正常細胞側の受容体膜タンパク質は同定できた。このタンパク質分子を基に、カウンターパートを同定する。細胞外ドメインのリコンビナントタンパク質は、順調に作製することができた。そのため、この膜タンパク質Xをセンサーに担持させて、細胞ライセートと混ぜることにより、ターゲットタンパク質を同定段階まで来ている。
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Strategy for Future Research Activity |
予定では、変異細胞側の膜タンパク質を同定する予定であったが、正常細胞側の膜タンパク質を同定するに至った。そこで、この膜タンパク質を基にして、変異細胞側の膜タンパク質を同定する予定である。膜タンパク質のカウンターパートをプルダウン法などで同定することは比較的困難であると予想される。そこで、表面プラズモン効果法よりも簡便かつ安価であり、クルードサンプルからも相互作用解析が可能であるBio-Layer Interferometry(BLI)法で同定した膜タンパク質Xのカウンターパートを探索する。まず、細胞外ドメインをリコンビナントタンパク質として作成し、この細胞外ドメインを担持したリガンドセンサーを準備する(すでに作製済み)。また一方で、同定した膜タンパク質Xとの相互作用が報告されている遺伝子を相互作用データベースより絞り込み、絞り込んだ遺伝子を個々に、正常細胞側で過剰発現させる。この過剰発現した正常細胞と変異細胞との混合培養条件下において、細胞表面を種々のプロテアーゼによって処理(シェービング処理)し、シェーブド画分液を用意する。上述のリガンドを担持したセンサーを、このアナライトであるシェーブド画分液に浸すことで、正常細胞で過剰発現した膜たんぱく質との相互作用があるかを詳細な相互作用情報から評価する。最終的に、リガンドセンサーに実際に相互作用した膜タンパク質のフラグメントを回収し、質量分析により確認することで、カウンターパートである膜タンパク質の同定確認をおこなう。
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Causes of Carryover |
前年度の使用予定額の満額を使用できなかったため。
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