2020 Fiscal Year Research-status Report
Hippo経路異常を内包した悪性腫瘍に対する合成致死を基盤とした治療標的の提案
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19K16809
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
鈴木 浩也 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 博士研究員 (40788551)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 合成致死 / LATS2 / Hippo経路 / SMG6 / TERT / 悪性中皮腫 |
Outline of Annual Research Achievements |
悪性中皮腫は、アスベスト暴露によって惹起される難治性の悪性腫瘍であり、LATS2をはじめとするがん抑制遺伝子の変異を原因遺伝子とすることが知られている。本研究は、LATS2変異を有する悪性中皮腫に対する合成致死候補遺伝子として見出したSMG6の分子標的としての有用性を明らかにすることを目的とする。2019年度の研究成果より、LATS2とSMG6の共発現抑制によってDNA損傷に起因したアポトーシスが誘導されることを明らかにした。また本合成致死表現型がLATS2はHippo経路に関連し、SMG6と複合体を形成するTERT (telomerase reverse transcriptase)の発現抑制によっても誘導されることを示した。これらの結果をもとに2020年度はLATS2とSMG6の下流因子をより詳細に追跡することで、LATS2とSMG6が協働し細胞死を誘導する分子機序の解明を行った。 ヒト中皮由来細胞株(MeT-5A)にLATS1、LATS2をそれぞれ欠損させた細胞株を樹立し、SMG6、TERTをsiRNAによる発現抑制を行ったところLATS2特異的に細胞死の誘導が確認された。また、TERT阻害剤として報告されているBIBR1532、ドキソルビシン、トリコスタチン、スラミン、VX222、TMPyP4を添加し細胞生存率の測定を行ったところ、これら6種類の薬剤のうち、BIBR1532、ドキソルビシン、トリコスタチンにおいて濃度依存的な細胞死誘導が認められた。一方でスラミン、VX222、TMPyP4ではLATS2欠損細胞とネガティブコントロール細胞との間に有意な差は認められなかった。細胞死を誘導した薬剤は、RNA依存的DNAポリメラーゼ (RdDP)を特異的に阻害することが報告されてており、SMG6とTERTの阻害によって誘導される細胞死がRdDPと関連することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度に示されたLATS2とSMG6の共発現抑制による合成致死表現型の再現性を確認したとともに、新たに見出したSMG6関連因子のTERTの発現抑制においてもLATS2欠損細胞特異的に細胞死を誘導することを確認した。この結果をもとにSMG6-TERT複合体に関連するシグナルのうち本合成致死に主に寄与する分子機構の解析を行った。また並行してこれまで遺伝子発現抑制による合成致死誘導のみの評価であったが、薬剤を用いて本表現型を誘導できるか検討した。結果としてTERT阻害剤のうちRdDPを阻害する薬剤特異的にLATS2欠損細胞で合成致死表現型の誘導が確認された。この結果より、SMG6-TERT複合体の機能のうちテロメアの完全性維持が本合成致死表現型の誘導に重要であることが示唆された。2020年度の結果より、LATS2欠損細胞に対するSMG6またはTERTの発現抑制による合成致死誘導に加えて、TERTのRdDPを阻害することでも細胞死を誘導することが示され本合成致死を誘導する分子機序の一端が明らかになった。近年の研究より、hTERT遺伝子で制御されるテロメラーゼ活性は多くの悪性腫瘍で上昇し、テロメラーゼ活性を抑制する手法が数多く報告されている。そのためTERTを標的とした本合成致死誘導に応用がしやすく、さらにこれまで遺伝子操作でのみ誘導された本合成致死が薬剤の投与によっても確認されより臨床応用への可能性が拓けたことが今回の進捗評価につながった理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
LATS2変異を有した悪性中皮腫に対しSMG6の発現抑制により誘導される合成致死の分子機序解明を目的として、2020年度はSMG6と複合体を形成するTERTの阻害ならびにRdDP阻害剤によっても合成致死を誘導することを明らかにした。RdDPはテロメア末端においてTERTによって制御されるテロメアの伸長反応に必須な機構である。テロメア末端はT-ループと呼ばれる特徴的な構造を有しておりTERTによるテロメア伸長反応を阻害していることが報告されている。T-ループの主要構成タンパク質としてTRF1/2が知られているがTRF1/2を中心に様々なタンパク質がテロメアに集積しテロメアの形成維持に関与することが知られている。またテロメアが司る細胞老化だけでなく細胞生存にもTRF1/2は大きな役割を有する。その一つがDNA損傷応答時に活性化されるATMの安定化機能である。TRF1/2はATMの不安定化からアポトーシス誘導を抑制している。またHippo経路が機能不全に陥ったときに誘導される細胞死にもATMが重要な役割を担うことも知られている。これらのことからLATS2変異またはLATS2の発現抑制によって誘導されるATMの活性化とSMG6/TERT発現抑制によって誘導されるTRF1/2の機能欠損からATMの安定化が協調して働くことで合成致死を惹起することが予想される。2021年度はTRF2-ATMを介して本合成致死が誘導されているのかを確認し、LATS2-SMG6の共発現抑制によって誘導される細胞死誘導機序の解明を試みる。
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Causes of Carryover |
端数調整の不備のため
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Research Products
(6 results)