2019 Fiscal Year Research-status Report
Values and preferences of Japanese elderly cancer patients about decision-making process
Project/Area Number |
19K16948
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
松岡 歩 名古屋大学, 医学部附属病院, 医員 (70833870)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 高齢者 / 価値観 / アンケート調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、日本人の高齢がん患者の治療方針決定における価値観・好みを様々な方法で収集、分析し、日本人の高齢がん患者の価値観の特徴を体系化することである。初年度はまず予備研究として、アンケート調査で用いる質問紙票の日本語版を作成し、妥当性、忍容性を検証した。 Friedらは、65歳以上の高齢者の治療方針決定における価値観、とくに優先順位について、1.生活の質(Quality of life;QOL)と延命のどちらを優先するか、2.現在の健康と未来の健康のどちらを優先するか、という2つのトレードオフ(一方を追求すれば他方を犠牲にしなければならない状態)について、価値観の優先順位付けを行うための質問紙票を作成し、米国で妥当性、信頼性を検証した(Case SM, JAGS2013)。今回の研究では、原著者の許可を得て、これらの質問紙票の日本語版を作成し、日本人の高齢がん患者での実施可能性を検討した。使用したツールは、①Health Outcome Prioritization Tool,②Present vs. Future Health Prioritization Tool, ③Time and Outcome Preference Scaleである。①、②はスライドスケールを用いるため、iPadを用いたタッチパネル式でのデータ収集に用いるアプリケーションを外部委託し作成した。 2020年1月~3月の期間で、名古屋大学医学部附属病院外来化学療法室を利用する65歳以上の高齢がん患者50名を対象として上記の質問紙票調査を行い、内容の妥当性、信頼性、および質問内容、iPadを用いた解答方法の忍容性について調査した。質問紙票の内的一貫性、収束的妥当性、再検査信頼性ともに良好であり、忍容性についても良好であった。また価値感について考える良いきっかけになった、と好意的な回答が多かった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画どおり、次年度以降の本研究で使用する質問紙票の翻訳(英語から日本語へのforward-backward translation)、調査票がスライドスケールを用いるため、iPadを用いたタッチパネル式での入力を行うためのアプリケーションの作成が初年度で実施できた。さらに、質問指標の妥当性、信頼性、忍容性、iPadを用いた入力方式の忍容性について、65歳以上の高齢がん患者50名を対象に予備調査が実施できた。当初の計画では、30名を対象に実施する予定であったが、倫理申請の際に保健学科の質的研究者より助言をいただき、内的一貫性(クロンバックα)を検証するための必要なサンプルサイズ数として、COSMINチェックリストを参考に、実現可能性を踏まえて50名にサンプルサイズを増やしたうえで、症例集積できた。妥当性、信頼性について、当初の計画よりも精度の高い検証ができたと考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
予備調査で妥当性、忍容性が検証された質問紙票を用いて価値観の調査を行う。 2020年4月~2022年3月の期間で、新たに化学療法を開始する、あるいは化学療法を実施している65歳以上の高齢がん患者を対象に、価値観の調査と同時に高齢者機能評価を行う。高齢者機能評価は、身体機能、認知機能、併存症、栄養状態、ポリファーマシー、うつ状態、社会サポートなど、高齢者の抱える問題点を多面的に評価する老年医学の手法である。 ①化学療法の忍容性(3か月以内の早期中止)と価値観の関連、②延命以外の価値観を重視する高齢者の特徴、③高齢がん患者と非高齢がん患者の価値観の違い、④高齢がん患者と家族の価値観の違い、等について情報収集を行う予定である。 課題: 1.2020年4月より研究代表者の所属機関が変更(名古屋大学→国立がん研究センター)となったため、症例集積に影響がでる可能性がある。国立がん研究センターでも速やかに倫理申請を行い研究を継続するほか、名古屋大学の研究者とも協力して症例集積を進める。 2.COVID-19の影響により、4月7日に東京で緊急事態宣言が出されたため、国立がん研究センターでは新規の臨床試験が開始できない状況にある。さらに4月16日時点では全国に緊急事態宣言が広がっており、今後の患者さんを対象とした研究の実施可能性については不透明である。医療者は一丸となって、この国家的、世界的危機に立ち向かっていくしかない状況であり、とくに患者さんを対象とした臨床研究については、COVID-19が収束するまで実施困難と考えられる。対応策としては、文献検索や医療者へのインタビューなど、直接患者さんと関わらない、他の方面からのアプローチを検討するしかないと考える。仮に医療者の価値観の調査を行う場合には、職務の遂行に負担とならないような工夫をするほか、感染対策のためWebインタビューとするなどの対策を行う。
|
Causes of Carryover |
日本語版に翻訳した質問紙票の妥当性、信頼性、忍容性を検証するパイロット試験で、アンケート調査を行う補助員を人件費を計上していたが、2019年度内に実施する必要があり、補助員をリクルートする時間的余裕がなかったため、研究代表者自身がアンケート調査を行った。そのため予定よりも今年度の使用額が少なく、次年度への繰り越しが生じた。来年度は、アンケート調査を実施する際の補助員の人件費に補填したい。ただし、COVID-19の収束の目途が立たず、患者さんを対象としたアンケート調査が困難な場合には、文献検索や医療者へのWebインタビュー等へ切り替える予定であり、その場合には文献検索費用(図書館協会を利用する場合)やインタビュー補助員への人件費にあてたい。
|