2019 Fiscal Year Research-status Report
統合失調症新規病態仮説「脂質生合成代謝異常-脳梁形成・機能不全仮説」の検証と応用
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19K17122
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
島本 知英 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 研究員 (90755117)
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Project Period (FY) |
2019-02-01 – 2023-03-31
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Keywords | 死後脳 / 統合失調症 / 脳梁 / 脂質 / 転写因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
幻覚・妄想などの陽性症状、感情鈍麻や自閉などの陰性症状、認知機能障害を呈する統合失調症は、患者のquality of life(QOL、生活の質)を著しく低下させ、重篤かつ慢性の経過を辿ることが多く、現存の治療法では完治は困難である。その病因は未だ不明であるが、近年、統合失調症の病理所見の一つとして、「脳梁」のサイズやミエリンの構造や白質走行の変化が注目されている。その一方で、なぜこのような変化が起こっているのか、その分子機構は未解明である。研究代表者はこれまでに、統合失調症患者の死後脳(脳梁部位)において、①特定の脂質の含量が有意に減少していること、②脂質生合成代謝に関与する遺伝子の発現量が低下していることを発見した(未発表データ)。これらの結果を踏まえ、本研究では、「脂質生合成代謝異常-脳梁形成・機能不全仮説」(脂質生合成代謝パスウェイの異常が統合失調症患者で観察される脳梁のサイズや構造異常の原因に関与するという仮説)を新規に立案し、分子・細胞・組織・行動といった多角的な側面から検証・深化させることで、統合失調症発症・病態メカニズムの解明にチャレンジする。 当該年度は、in silico プロモーター配列解析及び統合失調症患者の死後脳脳梁部位サンプルを用いて遺伝子発現解析を行い、統合失調症サンプルで変動していた脂質関連遺伝子の発現制御に関与している可能性が高い転写因子7種を同定した。さらに、パスウェイ解析の結果、それらの遺伝子が遺伝子発現調節ネットワークを形成していること、その最上流にNFATC2(Nuclear factor of activated T cells 2)が位置していた。このことからNFATC2遺伝子ネットワークの異常が統合失調症患者脳梁でみられる脂質変動の根底にある可能性を見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画通り、in silico プロモーター配列解析及び統合失調症患者死後脳(脳梁部位)の遺伝子発現解析を実施し、統合失調症サンプルで観察される脂質含量の減少や脂質代謝関連遺伝子の発現低下の原因である可能性が高い転写因子及びそれらが形成する遺伝子調節ネットワークを同定することができた。したがって、研究計画は概ね順調に進んでいると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、健常者と比較し統合失調症患者脳梁では、①特定の脂肪酸側鎖をもつ脂質が減少していること、②脂質代謝に関与する遺伝子及びそれらの上流に位置する可能性が高い転写因子の発現が変動していること、が判明している。そしてその脂質変動の根底にNFATC2を起点とした遺伝子ネットワークの異常が関与している可能性があることを見出した。この結果を踏まえ今後は以下の実験を行う。 1) NFATC2の機能解析:パスウェイ解析の結果から、NFATC2シグナルの下流には、アラキドン酸代謝に関与する遺伝子が位置していると判明している。そこで、Nfatc2をノックダウンした細胞から抽出した脂質を液体クロマトグラフ質量分析機(LC-MS)で測定し、Nfatc2の発現低下がアラキドン酸を中心とした脂質代謝に与える影響を調べる。 3)Nfatc2ノックアウト(KO)マウスの解析:NFATC2シグナルの異常が生体に与える影響を検証するため、Nfatc2 KOマウスの精子を外部機関より購入して個体を作成し、遺伝子発現解析(統合失調症関連遺伝子に及ぼす影響を評価)、②エピゲノム解析(master regulatorの遺伝子発現異常の原因探索)、③精神疾患関連行動テストバッテリーによる行動評価、④液体クロマトグラフ分析計を用いた脂質解析(脳梁の脂質代謝に与える影響を検証)、⑤細胞・組織形態解析(脳梁における各細胞の形態や分布、ミエリン構造に与える影響を検証)。⑥脳画像解析(小動物用高磁場MRI装置を用いた拡散テンソル画像解析により脳梁のサイズ変化や白質部分の線維束の走行を評価)、を行う。 4)バイオマーカーの探索:NFATC2を起点とした遺伝子ネットワークに関連する遺伝子や脂質、その代謝物の中でバイオマーカーの候補として利用可能なものがないかを、ヒトサンプル(末梢血、毛根細胞、iPS細胞など)を用いて探索する。
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Causes of Carryover |
代表者は2019年4月から2019年8月末まで、育児休業を取得していたため、2019年9月より研究を開始した。そのため、研究期間が当初の予定より短く次年度使用額が生じた。
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[Journal Article] Investigation of betaine as a novel psychotherapeutic for schizophrenia2019
Author(s)
T Ohnishi, S Balan, M Toyoshima, M Maekawa, H Ohba, A Watanabe, Y Iwayama, Y Fujita, Y Tan, Y Hisano, C Shimamoto-Mitsuyama, Y Nozaki, K Esaki, A Nagaoka, J Matsumoto, M Hino, N Mataga, A Hayashi-Takage, K Hashimoto, Y Kuniid, A Kakita, H Yabe, T Yoshikawa
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Journal Title
EBioMedicine
Volume: 45
Pages: 432-446
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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