粉末siRNA製剤を用いたCCL15を標的とする気管支喘息の新規経気道治療の開発

2019 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 19K17637
• Research Institution: Hiroshima University
• Principal Investigator: 宮本 真太郎 広島大学, 病院(医), 講師 (30633995)
• Project Period (FY): 2019-04-01 – 2023-03-31
• Keywords: CCL15 / 気管支喘息 / 誘発喀痰

Outline of Annual Research Achievements

広島大学病院呼吸器内科へ通院中の気管支喘息患者と健常ボランティアにおいて、高張食塩水吸入誘発を行い喀痰を採取し、その喀痰検体を遠心処理した後に、上清中のCCL15の濃度をELISAキットを用いて測定して比較検討した。すると、高張食塩水吸入により誘発して採取した喀痰の上清中のCCL15の濃度は、気管支喘息患者において健常者と比べ有意に高値であった。このことから、気管支喘息患者の気道において、CCL15の発現が亢進していることが明らかとなり、気道中のCCL15は気管支喘息におけるバイオマーカーとして、気管支喘息の診断や病勢の把握に役立つ可能性が出てきた。次に、気管支喘息患者において、ELISAキットを用いて血清ペリオスチン濃度を測定し、高張食塩水吸入により誘発して採取した喀痰の上清中のCCL15濃度との関連を調べた。すると、両者の間には有意な相関が認められた。ペリオスチンは気管支喘息における気道炎症や気道リモデリング（気道組織の傷害の後に生じる気道組織の再構築）に関連していることが報告されており、したがってCCL15は気管支喘息において特に気道炎症や気道リモデリングといった気管支喘息の主病態および難治化に関わっている可能性があることが明らかとなった。さらに、これらの結果からは、気道を構成する細胞におけるCCL15を標的として、これを経気道的に抑制する新規喘息吸入治療の開発につながることも期待される。

Current Status of Research Progress

2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.

Reason

ここまでは概ね順調に進展しているが、昨今の新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大のため、既に研究施設の利用，マウスや実験必要物品の購入，病理標本作製などが十分に行えなくなってきており、今後は研究の進捗に遅れを生じる可能性が高い。

Strategy for Future Research Activity

（ヒト誘発喀痰を用いた研究）：誘発喀痰中のCCL15濃度と、各種サイトカイン，喘息患者の各種背景因子との関連について解析を進めていく。
（マウスを用いた研究）
(1)野生型喘息モデルマウスを用いた研究：CCL15はマウスには存在しないため、ヒトCCL15のマウスにおけるオルソログ（相同遺伝子）であるCCL9を用いて行う。野生型マウスにおいて卵白アルブミン（OVA）を抗原とする喘息モデルマウスを作製し、マウス気道における CCL9の発現をBALF（気管支肺胞洗浄液）中のCCL9濃度の測定やマウス肺組織のCCL9免疫染色を用いて評価する。またCCL９の免疫染色により、CCL9のマウス気道における発現部位の同定を行う。マウス気道中のCCL9の発現と、その他の各種サイトカインとの関連を調べる。これらによってヒトCCL15（マウスCCL9）の気管支喘息の病態における役割を明らかにし、またバイオマーカーとしての有用性を評価する。
(2)ノックアウトマウスを用いた研究：CCL9ノックアウトマウスを購入し、そのマウスでOVAを抗原とした気管支喘息モデルを作製する。気道炎症，気道過敏性，気道リモデリング，BALF中の各種サイトカインが、CCL9ノックアウト喘息モデルマウスと野生型喘息モデルマウスとの間でどのように差があるかを解析して、ヒトCCL15（マウスCCL9）の気管支喘息における治療標的としての有用性を評価する。
(3)ヒトCCL15（マウスCCL9）を標的としたsiRNAの経気道投与による喘息治療効果の検討：マウスCCL9を標的とした液体siRNA、さらにはマウスCCL9を標的としたキトサンベクター粉末siRNAを喘息モデルマウスに経気道投与することで、気道炎症，気道過敏性，気道リモデリングがどのように改善するかを調べる方向である。

Causes of Carryover

誘発喀痰上清中のサイトカイン濃度測定用のELISAキットのうち、令和元年度に使用を予定していたがまだ未購入のものがあるため。これについては令和2年度中に購入して当該サイトカイン濃度の測定を行い、誘発喀痰上清中のCCL15濃度との関連を検討する予定である。それと同時進行で、令和2年度中には喘息モデルマウスを用いた研究を進める予定であり、今年度の研究費でマウス購入，マウス用の各種サイトカインELISAキット購入，マウス用の免疫染色用の抗体購入，喘息モデルマウス作製用の抗原（卵白アルブミン）購入等の費用をまかなう予定である。