2019 Fiscal Year Research-status Report
皮膚炎発症過程における脂質代謝変化の網羅的リピドミクス解析
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19K17816
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
永沼 達郎 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 助教 (60779619)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 皮膚 / アトピー性皮膚炎 / 脂質 / リピドミクス / セラミド |
Outline of Annual Research Achievements |
皮膚には多様な脂質分子が存在し,皮膚の健康を維持する上で重要な役割を果たしている。本研究では,皮膚炎の発症に伴いどの脂質代謝系がどのように変動するのかを明らかし,皮膚炎発症に関わる脂質代謝異常とその変動メカニズムを解明することを目指している。 アトピー性皮膚炎モデルマウス Spade は,Jak-1の恒常活性化によりアトピー様皮膚炎を自然発症するマウスであり,皮膚炎症状を呈する前からセラミド NDS およびその前駆体であるジヒドロスフィンゴシン(DHS)が選択的かつ顕著に減少しており,皮膚バリア機能が低下していることが昨年度までの研究にて明らかとなっている。本年度はまず,Spade において NDS および DHS が減少するメカニズムを追究するために,皮膚組織のタンパク抽出物や初代培養ケラチノサイトを用いて, in vitro 活性測定および RI 標識化合物を用いたトレーサー実験を行った。その結果,Spade のケラチノサイト では,NDS の合成活性は正常であるものの,パルミトイル CoA から DHS を生合成する de novo 合成の機能が低下している可能性を見出した。また,DHS の de novo 合成の律速酵素であるセリンパルミトイルトランスフェラーゼのうち,Sptlc3 の mRNA 量が Spade の表皮において有意に低下していることが明らかとなった。次に,NDS および DHS の減少が皮膚炎の発症に寄与するかどうか検証するために,野生型および Spade への塗布実験を行った。その結果,NDS の塗布により Spade の皮膚炎発症時期の遅延,症状の軽減が認められた。 以上本年度は,Spade の皮膚炎発症に先立ち,DHS の de novo 合成機能に異常を生じることで DHS および NDS が減少し,皮膚バリア機能が低下する可能性を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Spade において セラミド NDS および DHS が減少するメカニズムとして,DHS の de novo 合成機能に異常を生じている可能性を示した。また,セラミド NDS の塗布により皮膚炎症状の発症が遅延し,症状も軽減されることを示し,セラミド代謝異常の病態形成への寄与を明らかにした。これまで,皮膚炎の発症と脂質代謝異常との関連は,発症後の脂質組成に着目した相関関係で理解されていたが,本研究により初めて脂質代謝異常を原因として皮膚炎症状が発症する可能性が示唆された。また,脂質代謝異常を生じる原因についての知見も新たに得られた。以上より本研究課題は現在まで概ね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は引き続き,1. DHS が Spade において減少するメカニズムの追究,2. セラミド NDS による皮膚炎症状発症の抑制効果の再検証,3. セラミド代謝異常のJak-1依存性の確認の3点を行う。1 については,Sptlc3 の比活性が低下していることを直接酵素活性測定により再検証すると同時に,Sptlc3 の基質となるセリンやパルミトイル CoA の量を測定し,酵素の非活性以外の要因についても確認する。2については個体差の大きい実験であることを考慮し,これまでの結果に加えてさらに検証数を増やし,NDS による皮膚炎抑制効果を担保する。この時,豊富な構造多様性を持つセラミドの中で,NDS の構造特異的な機能性を探索する目的で,NDS 以外のセラミドの効果も検証する。3については,Spade におけるセラミド代謝異常が Jak 阻害剤によりレスキューされるかどうかを確認する。同時に,Jak 阻害剤により皮膚バリア機能が改善するかどうかを検証することで,NDS の減少と皮膚バリア機能の低下の関連性を解析する。 以上の解析に加え,今後は Spade の脂質解析により見出したセラミド以外の脂質代謝系にも着目する。Spade では,皮膚炎症状の発症前から Alxo8 の mRNA量,タンパク発現量,代謝産物が顕著に増加していることが昨年度までに明らかとなっている。Alox8 代謝物の中には,ケラチノサイトの増殖・分化の制御やかゆみを感知に関わるものが知られている。しかし,内因的に産生されるこれらの代謝物が皮膚炎症状の発症に関わるかは未だ明らかとなっていないため,Alox8 KO マウスと Spade を交配させることで解明を目指す。
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[Journal Article] Homeostatic Function of Dermokine in the Skin Barrier and Inflammation.2020
Author(s)
Akira Utsunomiya, Takenao Chino, Natsuko Utsunomiya, Vu Huy Luong, Atsushi Tokuriki, Tatsuro Naganuma, Makoto Arita, Kiyoshi Higashi, Koichi Saito, Noriyuki Suzuki, Ayako Ohara, Manabu Sugai, Koji Sugawara, Daisuke Tsuruta, Noritaka Oyama, Minoru Hasegawa
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Journal Title
Journal of Investigative Dermatology
Volume: 140
Pages: 838-849
DOI
Peer Reviewed
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