2020 Fiscal Year Research-status Report
自己免疫性精子形成障害における自己抗原の同定~種を越えた共通抗原の同定~
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19K18572
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Research Institution | Tokyo Medical University |
Principal Investigator |
永堀 健太 東京医科大学, 医学部, 助教 (50759561)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 精巣 / 自己抗原 / 精巣炎 |
Outline of Annual Research Achievements |
WHOによると不妊症の原因の約半数が男性不妊であり、そのうち約70%は特発性精子形成障害、つまり原因不明の精子形成障害であると報告されている。また、過去の男性不妊症患者の精巣生検の報告を参照すると、その組織像にはリンパ球浸潤や免疫グロブリン・補体沈着、つまり免疫学的な機序が認められる症例が多く報告されており、男性不妊症の病態には、何らかの免疫学的機序の関与があると報告されている。しかしながら、この免疫性の炎症を誘起するような自己抗原分子についてはいまだに分かっていない。2020年度においては、応募者が同定した18種類の自己抗原候補分子と雄性生殖細胞(Testicular germ cell: TGC)を14日間隔で2回皮下注射することで作成する実験的自己免疫精巣炎(Experimental autoimmune orchitis: EAO)マウスモデルから抽出した血清自己抗体とT細胞との反応性について検討を行った。各自己抗原候補分子を10、50、100および200μgに調整し抽出したT細胞と共培養したところ、熱ショックタンパク質(HSP)とGTPase活性化タンパク質(GIT)の2種類においてT細胞の活性化を意味する増殖反応が認められた(p<0.05)。また、ELISA法により各自己抗原候補分子と血清自己抗体との反応性を確認したところ、T細胞解析と同様にHSPおよびGITに反応する自己抗体が検出された(p<0.05)。この結果は、前年度報告した自己免疫精巣炎を引き起こす自己抗原候補分子と一致しており、重要な結果だと考える。したがって、今回反応が認められた自己抗原候補分子(HSP、GITなど)は免疫性の精巣炎を早期発見する極めて重要な因子であり、今後の検査法開発の一助となる可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
精子細胞・精子は自身の免疫系により異物として認識される要因として、精子が免疫系の発達よりはるかに遅れて分化成熟してくるために、自身の免疫系により異物として認識されることが挙げられ、特発性精子形成障害の多くには免疫学的な機序が関係していると考えられている。しかしながら、これらの免疫反応を検査により早期発見どころか検出する方法もいまだに確立されていない。今年度の結果により、ex vivo評価法において実験的自己免疫精巣炎(Experimental autoimmune orchitis: EAO)マウスモデルからT細胞を抽出し、同定された自己抗原分子と共培養したところ熱ショックタンパク質(HSP)とGTPase活性化タンパク質(GIT)と反応を示し、T細胞の活性化、増殖反応が認められた。この反応はHSPおよびGITを用いて作成されたHSP-EAOモデルとGIT-EAOモデルからのリンパ球を用いても同様の反応が認められた。また、血清自己抗体を用いたELISA法によってHSPやGITを固相化した場合、血清自己抗体と反応し体内で抗体産生が行われていることを検出できることが明らかになった。本年度の研究結果は、同定された自己抗原を用いて精巣炎の有無を検出することができることを示唆する重要なデータである。また、この分子はヒトにも発現していることがすでに判明しており、ヒト免疫性精巣炎の新たな検査方法の発明に繋がる有用なデータである。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、新たに開発したHSP-EAOマウスモデルとGIT-EAOマウスモデルにおけるより詳細な組織病理学的解析を確認し、これまでに検討したTGCを用いたEAOマウスモデルとの違いがあるかどうかを確認する。また、今回注目しているHSPおよびGITはマウスだけでなくヒトやラット、モルモットにも広く種を超えて発現していることが判明しており、その遺伝子配列は多少異なっているものの部分的には酷似していることが分かっている。もし、この共通部位に精巣炎を誘起する因子が隠れている場合、マウスだけでなくヒトにおいても免疫性精子形成障害を引き起こす原因分子である可能性が高い。従って、ラットやモルモットなどの他の手近な実験動物を用いて自己抗原候補分子を接種させ精巣に炎症反応を引き起こすのかについても検討を行う。また、今年度報告した血清自己抗体の検出など、接種後いつから検出可能になるのかその詳細な検討はいまだ不十分であると考えている。従って、本年度は他の動物を用いた検討を行いつつ、これらの検査方法について詳しい解析を行ってく予定である。
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Causes of Carryover |
本年度はコロナウィルス感染拡大に伴い実験動物の購入および試薬の購入の一部に制限がかかってしまったことから使用金額を予定より抑えられてしまったことが理由に挙げられる。次年度は、マウス以外の実験動物をはじめとした新たな実験が始まることから、その実験動物の購入費に充てたいと考えている。また、今年度に比べ自己抗原候補分子の精製が多く必要であることから、未使用額はその経費に充てることとしたい。
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Research Products
(3 results)