2019 Fiscal Year Research-status Report
前庭器官・半規管における低周波音に対する生理学的反応特性の解明
Project/Area Number |
19K19404
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
田鎖 順太 北海道大学, 工学研究院, 助教 (40791497)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 低周波音 / 振動感 / 音響心理 / 内耳 / 前庭器官 / 知覚閾値 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,低周波音曝露に対する前庭器官・半規管の反応性の解明を目的とし,低周波音を曝露した際の反応性の測定を試みた. 当該年度は,低周波音によって惹起される知覚反応である「振動感」に注目し,この知覚反応を生じさせている感覚器官を特定することを目的とし,音響心理学的実験を試みた。「振動感」は前庭器官・半規管における低周波音の受容に起因すると考えられたためである. そのため,被験者25名に対して20~200Hzの正弦波低周波音刺激を曝露し,振動感の閾値を「振動を感じる最低の音量」として求めた.音量の変更は調整法によって行った.また,音量を上げても振動感を感じられない場合,振動感知覚なしとして記録した.実験は防音室内で行い,内耳での受容に注目するためにヘッドホンによって低周波音を曝露した. 振動感知覚の有無には個人差があったが,20Hzでは全員(25人),125Hzでは9人,200Hzでは1人が知覚可能であると回答した.これより,「振動感」は低周波音によって特異的に生じる知覚反応であったことが確認された.振動感の閾値の平均音圧レベルは,周波数が高くなるほど低く,低周波音をスピーカーで曝露した先行研究と比較すると10~20dB高かった. 振動感の知覚閾値において顕著な差が確認されたことは,この知覚反応において蝸牛・前庭器官を含む内耳の寄与がきわめて小さく,体性感覚等,その他の知覚機序が存在していることが示唆される.低周波音による心理的反応特性の解明には全身曝露を用いることが望まれ,また,前庭器官・半規管の反応特性の解明には,生理学的測定法等に基づく異なる尺度の利用が必要と考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では,低周波音曝露に対する前庭器官・半規管の反応特性を解明する事を目的としており,その予備的検討として,当該年度は,これらの器官での反応に由来すると考えられる心理的反応「振動感」に関する実験を行った.この実験により,「振動感」の知覚閾値が周波数別に得られた事は本研究における一つの成果であるが,申請者の仮説とは異なり,この知覚反応が内耳に由来していない可能性が示唆されることとなった.そのため,今後の実験においては,実験方針の大きな転換が必要である. また,生理学的実験として筋電位測定の準備を進めていたが,解析には短時間刺激に対する反応性を積分しなければならないことに加え,時間の経過とともに被験者の反応性が鈍くなる点が判明し,長時間の低周波音曝露に対する反応性を評価することが困難であると判断した.生理学的実験に関して,異なる手法を用いる必要がある.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの実験によって,低周波音刺激の受容が,内耳以外に由来する可能性が示唆された.そのため,今後,低周波音の曝露手法に関する更なる検討を行う.また,客観的かつ生理学的反応機序に基づく測定を検討する. 曝露手法の検討に関しては,全身曝露および骨導音曝露を検討することとする.全身曝露では,ヘッドホンによる曝露と異なり,曝露環境の音響特性(定在波の有無,暗騒音,等)に関する慎重な検討が求められる.また,骨導音に関しては,振動子の取り付け位置,固定方法,振動大きさの校正,等に関する検討が求められる. 生理学的機序に基づく測定では,ビデオ式眼振計測装置による測定を試みる.既存の電気式測定手法と比較して,眼球運動を精度よく測定可能であることが知られているが,長時間の外部刺激に対する微小な運動の解析手法に関しては十分な知見は見受けられず,検討が必要である.
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Causes of Carryover |
低周波音曝露に対する反応性の解明のための予備実験として,当該年度は音響心理実験を行ったため,当初予算計上していた生体計測に関する機器類の費用が生じなかった. 次年度において,ビデオ式眼球運動測定装置等を購入する予算として使用予定である.
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