2018 Fiscal Year Annual Research Report
ニューギニア紛争後社会における未来と感情の動態に関する人類学的研究
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18H05640
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
深川 宏樹 兵庫県立大学, 環境人間学部, 准教授 (00821927)
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Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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Keywords | 文化人類学 / 紛争処理 / 感情 / 社会性 / パプアニューギニア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、これまで申請者が、パプアニューギニアで研究してきた紛争の処理と「感情の調停」という枠組みを、大規模紛争後社会へと展開するうえで、新たに未来志向のアプローチを導入し、いかに人々が大規模紛争により生じる憤りや死別の悲しみと向きあい、新たな制度や関係を生成させるかを解明し、理論化することにある。 本研究では、上記の研究目的を達成するために、主に2018年度は、パプアニューギニア・ブーゲンビル州で起きた鉱山開発をめぐる反政府軍と政府軍の紛争の経緯と顛末、停戦までのプロセス、およびその後の紛争処理の動向等について関連文献資料を中心に収集し分析した。 具体的にはまず、パプアニューギニアにおける紛争を取り巻く状況およびブーゲンビル州の大規模紛争の位置づけを把握するために、パプアニューギニアの紛争の全体像とその歴史的変遷、および紛争・紛争処理の方法について関連文献を渉猟した。次に、同紛争は、パプアニューギニアの植民地統治期に、隣国ソロモン諸島の人々と民族的共通性が高いとされるブーゲンビルの人々が、パプアニューギニアにマイノリティとして組み込まれたことに端を発するため、パプアニューギニアの植民地統治の歴史を検討し、とくに国境の引かれ方や民族間の違い、それに由来する対立感情について関連資料を収集した。さらに、2005年に設立したブーゲンビル自治政府の分離独立の動きや、国家主導の追悼式典の動向について把握した。それによって、分離独立を前にしたブーゲンビル内外の民族間の繋がりと隔たりの動きを明らかにした。 次に、同地域で現在進行中の紛争処理の現状を把握するとともに、新たな社会構築の可能性について先行研究の批判的読解を通して検討した。その成果は、とくに当該社会のマクロな歴史的背景と、ミクロな社会変容、また新たな社会性の生成について、国内の研究会での口頭発表、および日本語共著として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画は、おおむね順調に進展している。2018年度は文献研究と先行研究批判、ならびに理論研究を実施し、現地における紛争後社会のあり方の変化についてのデータ収集と、その社会変容を捉える基礎的な理論的枠組みの構築を行うことができた。 また、2018年度は、2つの研究会に参加し、口頭発表を行うとともに、日本語共著としてその成果を発表してきた。そのため、当該年度は研究成果の積極公開を図るとともに、次年度に向けた研究蓄積を着実に実施してきたといえる。 以上の理由から、当該年度は研究が順調に進んだとみなしうる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、大規模紛争を経験したパプアニューギニア・ブーゲンビル州を対象に、国家主導の追悼式典とそれに対する人々の反応や、紛争に起因する同州の分離独立の動きを民族間の対立感情との関連から解明してきた。今後の研究の推進方策として、来年度は、紛争調停で、遺族が抱える悲哀や憤りがどう扱われ、それらの感情が紛争調停の方式をいかに創り変えるかを調査する。また遺族が死別の感情といかに向きあうのかを、伝統的な弔いの方法との関係から問う。以上をふまえ、紛争後社会の未来と「感情の調停」に関する一般理論の構築を目指す。
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Research Products
(7 results)