2019 Fiscal Year Annual Research Report
ニューギニア紛争後社会における未来と感情の動態に関する人類学的研究
Project/Area Number |
19K20845
|
Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
深川 宏樹 兵庫県立大学, 環境人間学部, 准教授 (00821927)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 文化人類学 / 紛争処理 / 感情 / 社会性 / パプアニューギニア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、これまで申請者が、パプアニューギニアで研究してきた紛争の処理と「感情の調停」という枠組みを、大規模紛争後社会へと展開するうえで、新たに未来志向のアプローチを導入し、いかに人々が大規模紛争により生じる憤りや死別の悲しみと向きあい、新たな制度や関係を生成させるかを解明し、理論化することにある。 本研究では、上記の研究目的を達成するために、主に2019年度は、パプアニューギニアの紛争後社会において、現在進行中の紛争調停で、被害者の遺族が抱える悲哀や憤りがどう扱われ、それらの感情が紛争調停の方式をいかに創り変えるかを調査した。また想定外の死傷者が出た状況下、親族を喪った者たちは死別の感情といかに向きあうのか、そこで伝統的な弔いの方法(葬儀等)はいかほどに機能し、どれほど変容せざるをえないのかを明らかにした。 人類学の紛争とその処理を扱う研究は、生態学的アプローチから社会構造論、法人類学まで蓄積が厚い。しかし、それらの先行研究は、構造や規範中心の分析だけでは説明できない感情の問題を見落してきた。紛争研究では、いかに紛争で怒りが生じ、鎮静化するかを解明することは、長らく最も重大な課題とされてきたが、未だ研究が蓄積されていないのが現状であった。 このような問題意識のもと、申請者はパプアニューギニアの事例から、紛争処理を「感情の調停」という独自の視点から捉え直し、大規模な紛争を対象として、その処理方法である仲裁や村落裁判などにおける個人の怒りの制御や抑圧、ならびにその解消過程を記述・分析した。感情の扱い方がそれぞれ異なる制度に着目することで、本来、主観的で捉えがたい感情を、観察可能な次元で対象化し、それらの制度の比較から感情の現れ方や変容過程を浮き彫りにすることができた。それによって、対立や軋轢を必ずしも完全否定しない共在の論理を、実証的に検証することが可能となった。
|
Research Products
(6 results)