2018 Fiscal Year Annual Research Report
スピン流-熱流変換現象を支配する長さスケールの実験的解明
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18H05845
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大門 俊介 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (20825434)
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Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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Keywords | スピントロニクス / スピン流-熱流変換 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、スピン流-熱流変換現象を支配する長さスケールを実験的に明らかにすることである。スピン流が非保存性から必然的に現れる輸送現象の長さスケールを実験的に観測し、スピン流-熱流変換現象の微視的な発現機構を解明する。本目的を達成するため、本年度は、(1)非局所スピンゼーベック効果の磁性体膜厚依存性測定を実現する微細加工資料の作製、(2)スピンペルチェ効果の磁性体膜厚依存性の数値解析を行った。以下では、これら2つの成果の詳細を述べる。 (1)スピンゼーベック効果の磁性体膜厚および温度依存性を測定可能な微細測定素子の作製に成功した。試料には白金とイットリウム鉄ガーネット(YIG)の接合構造を用い、YIGに膜厚傾斜を与えることで1つの基板上に異なる膜厚領域が現れるように設計した。このYIG基板上に電子線リソグラフィを用いて微細な局所型スピンゼーベック測定素子を作製した。本試料を用いれば、スピンゼーベック効果の磁性体膜厚および温度依存性が測定可能であり、スピン流-熱流変換現象長さスケールを実験的に測定する準備が整った。 (2)スピンペルチェ効果の磁性体膜厚依存性の数値解析を行った。実験試料と同様の白金/YIG接合モデルに対して、試料中の熱拡散方程式を有限要素法により解析した。スピン流-熱流変換現象では、スピン流と熱流のそれぞれに対して特有の長さスケールが存在することが指摘されており、これら2つの長さを導入した拡散方程式を解き、実験結果を再現する物理描像および物理パラメータを検証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究により、スピンゼーベック効果の膜厚依存性を系統的に測定する実験基盤が整った。本年度に作製した微細素子は、磁気特性の均一な単一の磁性体上でスピンゼーベック効果の膜厚依存性を評価できる新しい設計の測定素子であり、本試料を用いることでスピン流-熱流変換現象長さスケールを精度よく評価することが可能である。さらに、スピンペルチェ効果の数値解析も行い、スピン流-熱流変換にはスピン流と熱流の2つの長さを導入することが明らかとなった。この知見は、スピンゼーベック効果膜厚依存性の解析にも重要な役割を果たすものである。これらの成果により、来年度すぐさま実験およびその解析を行う準備が整っている。以上の理由から、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度の研究では、スピンゼーベック効果の膜厚依存性および温度依存性の測定を試みる。試料には、本年度作成した微細素子を用い、各YIG膜厚領域の素子でスピンゼーベック効果の温度依存性を測定する。さらに、得られた信号に対して有限要素法に基づいた数値解析を行う。スピン流と熱流それぞれに対して長さスケールを導入した解析手法により、スピン流-熱流変換現象長さスケールを解明し、長さスケールを決定する微視的原理を探求する。
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