2021 Fiscal Year Research-status Report
プレシジョンケアを目指した抗がん薬起因性末梢神経障害予防に関する予測因子の検討
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19K21293
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
華井 明子 国立研究開発法人理化学研究所, 情報統合本部, 特別研究員 (60826220)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 化学療法起因性末梢神経障害 / がん / リハビリテーション / 作業療法 |
Outline of Annual Research Achievements |
化学療法起因性末梢神経障害(Chemotherapy induced peripheral neuropathy: CIPN)は、化学療法後の副作用として生じる手足のしびれ・感覚運動障害である。臨床像としては「ものをよく落とす」「つまづきやすい」等、様々な要因の影響が想定される機能障害・生活状況を呈し、CIPNの症状理解を一層複雑にしている。単純な痛みしびれの問題にとどまらないCIPNに対しては、薬物療法でのコントロールが困難な場合も多く、非薬物介入や日常ケアによる対策を講じる必要がある。 本研究では、既往歴・倦怠感・不安・抑うつといった背景要因がCIPNに及ぼす影響を分析すべく、神経系だけでなく運動機能や精神状態からCIPNの症状を紐解くレセプトデータの解析を実施しており、論文執筆に向けて解析や文献調査を実施した。がん化学療法の有害事象発生に関して機械学習を用いて生存時間解析を実施し、個人背景や治療特性に応じた副作用予測モデルを構築することを目的としている。 執筆に関しては、日本医学出版先進医療 NAVIGATOR シリーズや金原出版がん支持医療テキストブックに総説を共著として執筆した他、原著論文を共著執筆した(Journal of adolescent and young adult oncology, Pediatrics International)。また招待講演として、日本がんサポーティブケア学会特別講演「歴史から学ぶCIPNに対する支持療法と今後の展望」、同学会神経障害Year In reviewを実施し、日経メディカルに記事として取り上げられた。また厚生労働省「臨床研究総合促進事業 臨床研究・治験従事者等に対する研修プログラム」の令和3年度 臨床研究・治験従事者研修において講師を務め、その内容は臨床研究教育のEラーニング教育コースであるICRwebに登録した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本年、CIPNのレセプト情報に基づく解析および臨床での情報収集や調査研究の開始を予定していたが、新型コロナウイルスの感染拡大や世界的な薬剤の不足や投与対象の変更により不安定な状況であり、調査が困難であった。具体的には、CIPNの代表的な原因薬剤であるパクリタキセルに関して、「アブラキサン点滴静注用100mg供給停止に関する関連学会からの合同声明文」が日本臨床腫瘍学会のほか、日本癌治療学会、日本癌治療学会、日本胃癌学会、日本乳癌学会、日本肺癌学会の各理事長名で公表され、新規の治療を開始する患者については、①代替治療への切り替えが困難な膵がん患者やアルコール不耐(パクリタキセルへの代替困難)の患者の治療を優先、②胃がん・乳がん・肺がん患者にはアブラキサンをパクリタキセルに切り替える(肺癌、胃癌)か、他の治療法に切り替える(乳癌)など代替治療を積極的に検討することが指示された。またファイザーの「ホスピーラ」が出荷調整を公表したほか、日本化薬がパクリタキセル注 30mg/5mL「NK」、同100mg/16.7mL「NK」について治療継続中の医療機関を最優先することを発表し、日本化薬はパクリタキセル注 30mg/5mL「NK」、同100mg/16.7mL「NK」とドセタキセル点滴静注液 20mg/1mL「NK」、同80mg/4mL「NK」のそれぞれについて出荷調整すると公表している。これらの抗癌薬はそれぞれCIPNの発症頻度や症状寛解までの期間に大きな影響を及ぼす因子となり、また突発的な治療変更の頻度が増えると、研究対象の薬剤の影響が突発的に変化するため、CIPNの症状の実態および影響因子の調査結果に大きく影響を及ぼすことが予測され、調査開始のタイミングの策定が困難であった。
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Strategy for Future Research Activity |
レセプトデータの解析および現場の状況のヒアリング調査およびWebによる患者の日常生活状況の調査を予定している。 レセプトデータに関しては、影響因子が多岐に渡り複雑な縦断データが多量に得られており、一定の制限が条件とされる従来の統計学的手法で対応することは困難であると考えられた。そこで、縦断過程と時間対事象過程の基礎となる確率モデルを仮定することなく、時間対事象分布を学習できる方法であるDynamicDeepHit の適応による解析を検討中である。本手法を用いることにより、各共変量がリスク予測に与える影響や、縦断的な測定値の時間的な重要性を測定していく。 また、Webによる患者の日常生活状況の調査として、Patient-Reported Outcome (PRO) Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE)をベースに①疼痛、②倦怠感、③もの忘れ・注意力低下、④しびれ、⑤抑うつ・不安について日常生活(仕事・家事・セルフケア)に影響を与えている程度に関して、最初のがん診断から5年以内の就労経験・がん治療経験がある成人女性がんサバイバーを対象に、調査する予定である。
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Causes of Carryover |
研究遂行および学会の開催が大幅に予定変更となったため、本年度は下記の使用を予定している。 ・がんサポーティブケア学会(Web参加費9,000円)・緩和医療学会(参加費14,000円・旅費50,000円) ・現地への調査・患者接触が不要かつ、薬剤の供給変動に影響を受けない内容のWeb調査:委託費約35万円
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