2018 Fiscal Year Annual Research Report
排水処理システムからの亜酸化窒素削減に寄与する非脱窒性細菌の探索
Project/Area Number |
18H06492
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
末永 俊和 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任助教 (80828377)
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Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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Keywords | 地球温暖化 / 亜酸化窒素 / オゾン層破壊 / 排水処理施設 |
Outline of Annual Research Achievements |
亜酸化窒素(N2O)はオゾン層破壊物質・強力な温室効果ガスとして知られている。特に排水処理システムからのN2Oの放出は今後更に増加する見込みであるが、未だ抜本的な対策技術が確立されていない。N2O放出リスクを増大させずにN2Oを窒素に還元する非脱窒性N2O還元細菌に注目し、その活性を高め、排水処理システムからのN2O放出削減可能な技術の開発を目指している。本研究では省エネ型排水処理システム(アナモックスシステム)に棲息が示唆されている非脱窒性N2O還元細菌の活性の検出試みる。また、N2O還元ポテンシャルを明らかにするために非脱窒性N2O還元細菌の単離によりゲノム解析、生理活性試験での包括的なキャラクタリゼーションを行う。 今年度はまず、15N安定同位体を用いたN2O還元ポテンシャル評価手法の確立、ならびにアナモックスバイオマスを用いたN2O還元ポテンシャルの検出を行った。15N安定同位体を用いる本手法は、亜硝酸イオン、アンモニウムイオン、硝酸イオンが常に存在しているアナモックスシステムおいて窒素態イオンを分別し、N2Oの生成と消費速度を同時測定する手法として有用であると考えた。試験の結果、N2O生成速度と消費速度を分別して検出でき、N2O消費速度が生成速度よりも抑制されているためにアナモックスシステムでは高濃度のN2Oが蓄積する傾向にあることが示唆された。さらに、アナモックスバイオマスで亜硝酸存在下におけるN2O還元反応を調べたところ、亜硝酸の濃度にかかわらずN2O還元反応が同程度検出された。これは、有機物質を含む排水を処理する通常の活性汚泥での傾向とは異なっており、NO2-還元酵素を欠損し、N2Oのみを利用すると考えられる非脱窒性N2O還元細菌の一つの特徴を示している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
15N安定同位体を用いた試験は当初の計画通りその有用性を実証することができた。これらの結果を元に平成31年3月の水環境学会年会においてポスター発表を行い、投稿論文を執筆中である。 非脱窒性N2O還元細菌の集積化や単離に関して、昨年度の中旬から集積培養装置の運転を開始した。ターゲットとする細菌種は非常に増殖速度が遅い種であると考えられるため今年度も継続的に運転し、十分な培養時間経過後に細菌群集構造解析を実施する予定である。 これらの単離菌株が得られた後の全ゲノム解析に使用するため、ポータブル型DNAシークエンサを実施計画に沿って導入した。テスト試験として、これまでの研究で単離したが、まだ全ゲノム配列を決定していないN2O還元細菌株を用いて実験手法の確認、解析環境の構築を行った。結果、ショートリードのシークエンサのみのデータでは構築が難しい、完全長の全ゲノム配列が比較的容易に得られることが分かり、これからの研究展開に大きく活用できると期待する。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で新たに確立した15N安定同位体を用いた試験手法の適用範囲を拡大し、通常の活性汚泥や、環境サンプルである河川底泥などでN2O生成反応とN2O還元反応の同時検出を試みる。これら活性試験の結果と細菌群集構造解析の結果を総合的に解析することで、細菌群集構造の違いによってN2O還元が異なるという仮説を検証する。また、排水処理システム以外の自然環境中での非脱窒性N2O還元細菌存在の可能性を遺伝子レベルで探っていく予定である。この方針により、非脱窒性N2O還元細菌が特異的な環境に存在するのか、または広く自然環境中にも存在しているのかを見極めることが可能になる。 昨年度から運転しているN2O還元細菌の集積培養装置に集積された細菌種の同定、並びにN2O還元活性のキャラクタリゼーションを実施する。また、そのバイオマスを活用して単離を試み、単離菌株が得られた際はゲノム解析並びに活性試験にて非脱窒性N2O還元細菌の特徴を確認する。 本年度前半にコロンビア大学(ニューヨーク州)の研究室に3ヶ月ほど滞在し、微生物代謝活性を評価するための最新技術を学ぶ機会が得られている。そこで習得した知見、並びに技術を本研究の進展に順次活用していく予定である。
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