2021 Fiscal Year Research-status Report
Rebuilding the philosophical concepts of imagination from the pathological perception of autistic spectrum disorder
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19K21612
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
野尻 英一 大阪大学, 人間科学研究科, 准教授 (30308233)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三重野 清顕 東洋大学, 文学部, 教授 (70714533)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2023-03-31
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Keywords | 構想力 / 哲学 / 精神病理学 / ヘーゲル / ラカン / デリダ / ドゥルーズ / 自閉症 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、申請時予定を超える四回の研究会を年度内に開催した(詳細は下記)。プロジェクトの主旨である哲学諸分野と精神病理学分野との連携および若手研究者間の連携はさらに進み、活発な発表と議論の交換が行われた。ゲスト・メンバーの招聘も進み、参加者は開始当初の7名から19名と大きく増加した。研究データベース構築については専用機材および学生アルバイトによる体制を維持し、資料のデータ化を順調に継続した。 今年度最大の成果として、本研究会が企画主体となり「精神分析と哲学の悩ましい関係」パネルディスカッションを開催した。東京精神分析サークル/哲学の実験オープンラボ(大阪大学未来共創センター)/早稲田大学大学院文学研究科表象・メディア論コースとの共同主催によって開催し、申込者数146名と盛況であった。秋には、本プロジェクトを発展させて哲学と精神分析の融合であるスラヴォイ・ジジェクの思想を健康生成的に解明する次期プロジェクトを共同で計画し、科研費申請を行った。 第8回研究会(オンライン開催・Zoom)4月10日(土)中村徳仁「シェリングと後期ロマン派」、片岡一竹「二〇世紀フランスのヘーゲル哲学とラカン」参加者19名。 第9回研究会(オンライン開催・Zoom)7月10日(土)小川歩人「デリダの観点からヘーゲル記号学/構想力の再検討」、辰己一輝「現代障害学における ASD の哲学的再検討: 構想力、共感性との関連で」参加者18名。 第10回研究会(オンライン開催・Zoom)11月13日(土)高橋一行「ヘーゲル所有論は無限判断論に基づき、そこから社会が構想される」、池松辰男「解体のあとに来るもの―ヘーゲルによる Gewissen の解釈とその意味―」参加者19名。 第11回研究会(オンライン開催・Zoom)1月8日(土)片倉悠輔「大衆の構想力 アナーキズムとフロイトの群衆論をめぐり」参加者14名。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本計画の中心活動である「構想力と精神病理学」研究会については、当初予定を超える四回の開催があった。定期的な研究会に加え今年度は、当研究会が企画主体となり「精神分析と哲学の悩ましい関係」パネルディスカッションを一般にも公開したかたちで開催し、好評を得ることができたのは、大きな成果であった。また日本ヘーゲル学会より打診を受け、当研究会が企画主体となって日本ヘーゲル学会大会の主シンポジウムにおいて「ヘーゲルと精神分析」シンポジウムを行うこととなった(6月11日予定)。当研究会メンバーが登壇し、研究会における成果を公表する機会となる。こちらも予定を超える計画の進捗と言える。 コロナ渦の影響が大学にも及んでいるが、研究会活動に関してはZoomなどオンライン会議システムの導入により支障なく開催することが出来ている。また懇親会などの機会は全面的に停止とせざるをえないが、人的ネットワークの形成は順調に進捗し、参加者の人数は倍増している。成果物の出版については出版社と打ち合わせを進めるも、次期科研費プロジェクトにおいてより一般書籍分野に適合した課題で書籍を編むことを検討している。 現在のチームにおけるメンバー間の関係は良好であり、ヘーゲル、ラカン、デリダ、ドゥルーズ、自閉症研究、資本主義研究という主題で20名近くの若手研究者が集合したことにより、貴重なプラットフォームの形成ができている。この基盤を継承し、さらに発展させるため、挑戦的研究(開拓)分野科研費に中規模の資金計画を申請した。現代思想家スラヴォイ・ジジェクの「症候の思想」を健康生成(サルトジェニック)なものにする途を解明するという主題を掲げ、現代におけるグローバル化する世界と日本社会における希望と幸福の問題との関係に哲学&精神分析の理論をもって切り込むビジョンを提示した。 以上のように、当初の計画以上に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
語学で分断されがちな日本の哲学・思想研究において、若手のつながりを作り、他分野との連携にも開いていくのが本プロジェクトの目標であったが、日本ヘーゲル学会において「ヘーゲルと精神分析」シンポジウムを開催する運びとなったことで、当初の計画以上に進展したかたちで実現されたと言える。古典的な原典研究およびドイツ語圏におけるヘーゲル研究のフォローが主要な傾向であった日本ヘーゲル学会に、ラカンやデリダらフランス現代思想系の若手研究者を招聘し、議論を行い双方の人的交流を促進できることは大きな成果となる。 日本ヘーゲル学会側でも研究代表者(野尻)が主体となって「フロンティア研究部会(仮称)」の立ち上げが準備されている。今後、こうした制度を活用し、本プロジェクトの形成した資産である哲学諸分野間、精神分析/精神病理学分野にまたがる人的ネットワークによる交流を促進して行きたい。 また今年度は、大阪大学人間科学部付属未来共創センターにおいて研究代表者(野尻)が主体となって「哲学の実験オープンラボ」プロジェクトが稼働を開始した。これは社学連携を理念として、哲学の研究・教育活動を社会に開いたかたちで行うプラットフォームである。3月に本研究会が主体となって開催した「精神分析と哲学の悩ましい関係」パネルディスカッションも、未来共創センター経由の広報を活用することにより、多くの一般参加者を得ることができ、また哲学領域においても従来より幅広い分野からの参加があり、好感触であった。 本科研費プロジェクトは、コロナ禍により旅費支出の機会が抑制されたことと、日本ヘーゲル学会シンポジウムの6月ハイフレックス開催が決まったことで期間延長を申請したが、シンポジウム開催をもって事実上終了する。蓄積された資産を生かした次期科研費プロジェクトが採択された場合には、哲学の実験オープンラボをプラットフォームとして活用し、発展継続したい。
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Causes of Carryover |
今年度は昨年度に引き続き、コロナ禍の影響により研究活動が影響を被った面はある。研究上の交流についてはZoomなどオンライン会議を用いることで、実質的な障害は回避できており、研究会の開催については想定以上の回数を行うことができた。一方で人的ネットワークの構成の面では、対面での共同研究作業は制限され、また懇親会などの機会もゼロとなったことにより、従来からの状況の変化を経験しており、総体的にはやや進捗が鈍化した面がある。しかし活発な研究活動の展開による成果として、日本ヘーゲル学会の大会シンポジウムに本研究チームが起用された。6月にハイフレックスで対面とオンラインを併用して行うため、この機会を利用して、交流を促進するべく、今年度旅費分をシンポジウムで集まるための旅費にあてることとした。こうした事情により次年度使用額が生じた。
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Research Products
(54 results)