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2021 Fiscal Year Research-status Report

The Processes and the Achievements in Literary and Cultural Productions by Arab, Muslim and Palestinian Diasporas in the U.S. Urban East Coast

Research Project

Project/Area Number 19K21639
Research InstitutionKeisen University

Principal Investigator

有馬 弥子  恵泉女学園大学, 人文学部, 教授 (70212652)

Project Period (FY) 2019-06-28 – 2023-03-31
Keywordsパレスチナ / パレスチナ系アメリカ文学 / アラブ系アメリカ文学 / イスラーム / ムスリム系アメリカ文学 / アヤド・アクタール / ベティー・シャミー / シャミー作Roar
Outline of Annual Research Achievements

2021年度上半期には現代演劇研究会より刊行予定の『現代演劇』23号に掲載するために執筆を依頼された原稿二篇を完成させ編集者に提出した。
アクタール作The Invisible Handについては、「金融経済に侵食されるイスラム急進派の理想――もう一つの『見えざる手』」と題し、登場人物であるアメリカ人銀行家とパキスタンで暗躍するムスリム過激派の指導者と青年の個人としての軌跡がいかに描かれているかを検証した上で、アメリカ的資本主義とこれを酷評し理想を掲げるイスラム急進派が対立しつつも、両者が金欲というもう一つの「見えざる手」の誘惑に屈し道徳的凋落を辿る点で酷似していることを提示することが、イスラムのテーマに加え、人類と金融の関係性のテーマをも追ってきた作者の着眼点であることを論じた。
イタマール・モーゼス(脚本)、デヴィッド・ヤズベック(詩と音楽)によるThe Band’s Visitについては、「『政治的砂漠』の蜃気楼としてのアラブとイスラエルの交差」と題し、本作中、僅かながら明確に現れるイスラエル、アラブ間の緊張に言及した上で、本作は人が民族的対立を超えて家族問題、死など普遍的痛みを共有し得ることを提示しようと試みたこと、それにあたり音楽の演奏や鑑賞が触媒となっていることを検証した上で、本作のこのような着眼点はサイードが主張した政治経済と文化の関係、つまり政治経済の優先が文化の欠如を招き、その不毛な土壌が紛争の紛糾等の要因となるという文化論と合致することを論じた。
年度下半期は日本アメリカ文学会東京支部3月例会での発表の準備に充てた。本発表ではパレスチナ系アメリカン劇作家であるベティー・シャミーの作品の中で登場人物5人が全てパレスチナ人かパレスチナ系アメリカンであるRoarを取り上げ、「Betty Shamieh作Roarにみる出自詐称の代償」と題して発表した。

Current Status of Research Progress
Current Status of Research Progress

2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.

Reason

『現代演劇』の原稿二篇を9月に提出したが、その後校正についての連絡などは未だなく、発刊には至っていない。しかし、The Invisible Hand論を完成させる直前8月に、7月にイギリスのキルンシアターがルバシンガム監督による新たな配役で本作を再演したものがオンライン配信され、これを購入し観る幸運に恵まれた。また、The Band’s Visitについては、提出前に、Huisman Linguistics & Literary Serviceの現地からの協力によりモーゼス、ヤズベックおよび出演者らが登壇するシンポジウムや、その他インタビューの配信等を数点入手することができ、論点に取り入れた。
日本アメリカ文学会東京支部での発表については、Roarは初演もBroadway Play Publishingによる脚本の出版も2004年で、最新作品ではないものの、発表内で言及したエジプト、ソハグ大学のYasser Fouad Selimによる2012年と2014年の論文以外には注目すべき学術論文がなく、また、シャミーによる作品でパレスチナ系を描いた作品はセリムが本作と並べて論じたThe Black Eyed & Architecture以外にはなく、更にパレスチナ問題に触れた作品は本作のみであり、初演と出版から20年弱が経っているものの、これについて論じた意義は大きい。
これら二作以降、なぜシャミーがパレスチナ問題やパレスチナ系をテーマにした作品を発表していないのか、本発表に向けて完全には究明し切れなかったものの、セリムが述べるように、アメリカではこれらのイシューを直接作品で取り上げることが文学上の検閲に抵触することを恐れてのことかもしれないという推測には至った。セリムは、先の二作でさえも、その内容は非難と検閲を恐れてパレスチナ問題を婉曲にしか描けていないと論じている。

Strategy for Future Research Activity

シャミー作品をめぐるアメリカでの文学上の検閲については、今後とも本課題で焦点を当て続ける。特に、3月の発表及び後の質疑応答で触れた以下二点は新年度の優先課題である。
一点目は、サイードの娘Najla Saidやシャミーをはじめアメリカ生まれのパレスチナ系文芸関係者においては必ずしもパレスチナ系のアイデンティティーが明確ではなく、創作活動においてもパレスチナと直接対峙する意思が希薄である場合も多い点である。この原因が、どの程度までアメリカ社会のパレスチナ問題に対する偏向にあるのか、又はアメリカ育ちのパレスチナ系の場合、生い立ちにより内発的にパレスチナの文化や歴史と距離を置くようになるのか、これらの点を同時多発テロ以降および今後の文芸作品と文芸関係者の動向から検証し続けていく。
二点目は、The American Theatre Readerに参加者6人の手記が収録されているアメリカ現代演劇関係者によるパレスチナへの旅と参加者の作品についてである。この旅はナオミ・ウォレスが企画実施したもので、アメリカ演劇関係者と現地パレスチナ演劇関係者の協同を模索する目的で企画され、アメリカ側からはシャミーも参加した。6人の内シャミーのみがアラビア語の知識がある中東系のバックグラウンドであった。ロバート・オハラとキア・コースロンは共にアメリカ生まれだがアフリカ系、またトニー・クシュナーはユダヤ系である。3月発表の結論部分でこの企画に言及したことは、本課題の新年度の次の二点の着眼点に直結する。一に、この旅を率いたウォレスの代表作Fever Chartはパレスチナ人女性とイスラエルの兵士、建築家が登場する優先的に取り上げるべき作品であること、二に、参加者のルーツが多岐にわたっていることから、パレスチナに注がれる眼差しがインター・エスニックであることを文芸活動の観点から更に検証していくべき点である。

Causes of Carryover

新型コロナウィルスの感染拡大が収束せず渡航が不可能になったため、次年度使用額が生じた。
しかし日本および先進諸国でワクチン接種が進む等々、以前よりは日本政府や各国政府の渡航制限および入国制限が緩和しつつあるため、2022年3月日本アメリカ文学会東京支部例会発表で研究対象とした作品Roarを著した劇作家、小説家、俳優であるベティー・シャミーの招聘、または国内諸学会が全てオンラインである状況が続けばオンラインでのインタビューを現在検討している。シャミー作品、創作活動、アメリカ現代演劇の動向、パレスチナ問題等々について多岐にわたり講演および創作ワークショップを依頼することができると考える。シャミーはヨーロッパ各地でワークショップを担当した経験があり、もしも実現すれば本課題のかねてからの「文化、文芸上、パレスチナにはアジアからの眼差しが注がれている」という仮説を実証していくきっかけとなる。
この命題が成立すれば、セリムが批評家として指摘し、シャミーが劇作家として恐れてきた、パレスチナ系がアメリカで創作活動に携わる際に課される検閲に対する文芸上の出口を提供できるかもしれない。パレスチナ系作家がアメリカ外のアジアや世界に活動の場を広げていく足場となれれば、イスラエルよりの政策を取り続ける政府下にあるアメリカにおいてよりも、彼らが表現の自由、発信の自由を得る一助となり得るかもしれない。

  • Research Products

    (1 results)

All 2022

All Presentation (1 results)

  • [Presentation] Betty Shamieh作Roarにみる出自詐称の代償2022

    • Author(s)
      有馬 弥子
    • Organizer
      日本アメリカ文学会東京支部

URL: 

Published: 2022-12-28  

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