2019 Fiscal Year Research-status Report
A Social and Cultural Analysis of "Post-Truth" as Epistemology
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19K21667
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
太田 好信 九州大学, 比較社会文化研究院, 特任研究者 (60203808)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
杉山 あかし 九州大学, 比較社会文化研究院, 准教授 (60222056)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | ポスト真実 / 社会的ネットワーク / 非合理性 / 相対主義 / フィルター・バブル / 権威主義的パーソナリティー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「ポスト真実(Post-Truth)」という状況を政治に限定せず、より広く認識論の形態として捉えなおし、その成立の歴史を理解し、さらにその実態を量的・社会学的(統計)調査、ならびに質的・民族誌的(インタビュー)調査を用いて解明しようとする挑戦的試みである。 2019年度は、本研究の初年度にあたるが、「ポスト真実」という時代を語る状況への分析と介入の多様な様態を、文献調査と実地調査から明らかにした。まず、分担者である杉山は、インターネットを媒介とした社会的ネットワークの効果として、最先端の技術が「フィルター・バブル」という言論の閉鎖性を生んでいること、ならびに科学的進歩とは相いれない内容の宗教的発想の拡散も起きていることを指摘する論考が多い、という見解をえた。とくに、認知プロセスそのものが、物語や伝統という合理性から乖離した枠組みに囚われる傾向があるという結論をえた。 代表者である太田は、「ポスト真実」を相対主義の一種と捉えるのではなく、啓蒙が可能にした権威からの解放が、(世界の脱魔術化という)宗教からの解放と同時に信仰の自由(信じたいことを信じる自由)を生んだとする、啓蒙のパラドクスの産物であると想定する。このような矛盾した状況は、現在、わたしたちが怪異や驚異に関心を持ち続けていることからもわかる。近代を特徴づける要素の一つが、日常の合理化であるとすれば、すでに科学研究(サイエンス・スタディーズ)の領域において、ブル-ノ・ラトゥールがいうように、わたしたちは「近代的ではない」のである。また、タルコット・パーソンズを批判的継承したハロルド・ガーフィンケルのエスノメソドロー」は、社会的秩序の存在を盲信する日常的生活態度を民族誌的に描写したが、この視点も、今後、「ポスト真実」にアプローチする際には、有意義な歴史的遺産として相続するべきであるという結論をえた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は、2019年7月に採択され、約半年の間に、文献を通し「ポスト真実」をめぐる多様な介入を把握することに成功している。たとえば、「ポスト真実」を無知が拡大する社会的状況、権威への反発としての反知性主義として、事実の優位性の回復を主張する「ファクト・チェック」だけが、「ポスト真実」へのアプローチではないことが判明し、それらとは異なった分析や系譜的理解を模索しようという点まで到達した。 分担者と代表者は、同一の部局に所属しているメリットをいかし、日常的に意見交換をおこなってきた。その結果、さまざまな歴史的局面において、人びとの行動や判断と非合理性に基づいてなされてきたという解釈において、一致した。 また、最近の社会的ネットワークの拡大について着目する研究が多かったが、分担者も代表者も、社会学や隣接領域における歴史的蓄積の重要性も認識した。たとえば、アドルノの『権威主義的パーソナリティ』が一つの分析モデルになるという見解をえた。代表者も、文化人類学の民族誌には、真実の開示が信念からの解放には至らないケースがあり、合理性によって説明できない暴力の発動もあったことを再発見した。たとえば、後者の例。合理的判断からすれば、労働者の殺戮は貴重な労働力の損失であるにもかかわらず、そのような暴力の横行が記録されている(プトマヨでのゴム採集者への暴力)。 今後、分担者はアメリカ合衆国に大統領選挙の投票行動をターゲットにし量的調査をおこなう予定である。また、代表者は、非合理性の典型としての「信念(信じたいことを信じる)」が、「ポスト真実」の特徴である「オルタネイト・ファクト」の根底にあることから、UFO・アブダクティの語りを分析する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、本研究の中核をなす年である。分担者は、アメリカ合衆国の大統領選挙の投票パターンについて量的調査を実施する計画であった。また、代表者は、非合理と現実との境界線上の現象の典型として論じられることが多い「UFOアブダクティ」が自己の経験を語るナラティヴについて、実地調査を予定していた。しかし、4月中旬現在、日本からアメリカ合衆国への渡航だけではなく、対面での調査は不可能である。また、量的調査についても、アメリカ合衆国市民らの関心から、大統領選挙は影をひそめ、関心はコロナウイルス蔓延に集中している。このような時期において、量的調査を実施できるかどうか、懐疑的にならざるをえない。このような状況において、分担者と代表者とは緊密に連絡をとり、本年度の調査のあり方を見直すことになるだろう。 もし、本年度の調査が困難になった場合、2019年度の文献研究を継続し、実地調査は、コロナウイルス蔓延が終息してから実施するという代替研究計画を想定せざるをえない。
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Causes of Carryover |
2020年3月中に、代表者は大阪における実地調査(大阪UFOサークルでの参与観察)を実施する予定でいた。しかし、3月中の出張は、コロナウイルスの影響を受けてキャンセル。また、大阪UFOサークルの会合も中止になった。以上の理由から、2019年度の最後の出張旅費が残額として残ってしまった。 2020年4月以降、大阪UFOサークルの会合に参加する予定であるので、その参加費として計上したい。
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