2020 Fiscal Year Research-status Report
A Social and Cultural Analysis of "Post-Truth" as Epistemology
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19K21667
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
太田 好信 九州大学, 比較社会文化研究院, 特任研究者 (60203808)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
杉山 あかし 九州大学, 比較社会文化研究院, 准教授 (60222056)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | ポスト真実 / 陰謀論 / 権威主義的パーソナリティ論 / 反知性主義 / 啓蒙の両義性 / 対話 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2(2020)年度において、コロナ禍の影響により、当初予定していた研究の方向性は大きな転換を強いられた。まず、代表者はアメリカ合衆国への渡航が困難となり、カリフォルニア州ロサンゼルス市での研究調査を断念せざるをえなかった。分担者は、2020年11月のアメリカ大統領選挙に向けた独自アンケート調査を予定していた。しかし、コロナ禍のため、質問事項に対し中立的かつ十分な回答がえられないのではないかという危惧を理由に、その実施を延期せざるをえなかった。 上記の研究計画の代替として、以下を実施した。代表者は、文献研究を通してアメリカとヨーロッパにおける陰謀論の比較研究をおこなった。おりしも、トランプ大統領による「オバマ大統領の出生地を疑問視する立場」の表明から2021年1月の議会乱入集団との関係疑惑まで、「陰謀論」ということばが広く社会現象となった年であった。イルミナティ、フリーメイソン、『シオンの賢者による議定書』、闇の国家、など、これまで社会的周縁と位置付けられてきた思想が反知性主義と連動し、ソーシャルメディアによって拡散したことを確認できた。反証不能という意味では「信仰」であり、意味の過剰でもある。「ポスト真実」状況が事実の開示により解消されない理由が判明した。 分担者は、令和3年(2021)度におけるアンケート調査を実施すべくさらに準備を進めてきた。とくに、テオドール・アドルノがいう「権威主義的パーソナリティ」(神秘主義と権威主義の融合)を土台にし、アンケート調査により検証可能な仮説として提示できるように理論的考察を加えた。 今後の計画として、現在、海外渡航の可能性は不透明である。もし、海外渡航が困難な場合、代替のプロジェクトとして代表者は文献調査を継続することとする。分担者は、今後もアンケート調査の可能性を模索する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2(2020)年度の進捗状況を2)としたのは、次のような理由による。令和2年3月以降、海外渡航が困難となり、代表者はアメリカ合衆国における現地調査を断念せざるをえなかった。また、分担者も、コロナ禍により社会基盤が大きな変容を迫られたアメリカ合衆国においてアンケート調査を実施しても、十分な回答が見込めないという判断をせざるをえなかった。研究計画書において令和2(2020)年度実施予定であった(当研究の中心となる)調査は中止することになった。 しかし、予期せぬ収穫もあった。代表者は、現地調査が困難であったため、文献調査から次の結論をえた。社会科学は啓蒙主義を根底に置き、真実の開示が誤謬を正すという前提で研究を推進してきた。ポスト真実とは、そのような前提が揺らいだことを意味する。一方では、啓蒙は「闇から光」へという理性の発展である。それが社会科学の存在意義であった。他方において、啓蒙は自由という価値を広め、やがて反知性主義と融合し、社会科学をエリート主義として排斥する余地もうんだ。トランプ大統領は就任以降、啓蒙のもつ後者の意味を体現したといえる。真実の開示が正しい認識へとは向かわないのである。科学全般が社会において周縁化されるとき、問うべきは、社会科学はその存在意義をどう回復できるか、である。 分担者も、コロナ禍によりアンケート調査を実施することが困難になった。令和2(2020)年度はアンケートを実施する代わりに、調査項目を精緻化する作業をおこなった。アドルノのいう「権威主義的パーソナリティ」論を検証する目的で、権威主義と神秘主義への傾斜を図る設問を考案した。その研究活動により、令和3(2021)年度に予定しているアンケート調査をより実り多いものにすることが可能であろう。 これらマイナスとプラスの要素を勘案し、2)の評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度は、令和3(2021)年度である。しかし、コロナ禍の収束が不透明なまま、代表者のアメリカ合衆国における現地調査を計画に組み込むことは現実的ではない。また、それと並行し、分担者によるアンケート調査に関しても、その実施時期を再検討すべきである。そのため、今後は1年間の延長(最終年度を令和4年度にする)を視野に入れて研究計画を練り直したい。 代表者は、ワクチン接種によりアメリカ合衆国への渡航が可能になった場合、現地調査を行う予定である。それが不可能となった場合、令和2(2020)年度同様に、文献調査をおこなう。文献調査による解明点として、1) 事実の開示が誤謬の修正へと帰結しないこと、2) 偶然性を排除し現実が構成されること、3) 科学が反知性主義により相対化されること、の3点をポスト真実の特徴として位置づけ、それらが支配的とまではいえないが、それでも影響力をもつ社会では、3) 社会科学からどのような介入が可能か、を令和3(2021)年度の最終的課題として探究したい。 分担者も、アメリカ合衆国におけるコロナ禍の展開を凝視しつつ、アンケート調査を実施するかどうかを判断する。日常の回復がほど遠いなか、アンケート調査を実施しても、当初予定していた問題設定と回答者の日常がかみ合わず、高い回答率を望めないことが予想される。そのため、設問の再設定をおこないつつ、状況に見合った対応をとる予定である。その間、代表者と連携をとりながら、ポスト真実を分析するために有効な理論的枠組みに関し、検討を進める。 研究期間を延長した場合、令和4年度が最終年度になる。最終年度には、コロナ災禍の収束に目途がつくという前提としたうえで、成果報告の一部として、対面によるシンポジウムの開催を計画している。
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Causes of Carryover |
繰り越し金が発生した理由は、コロナ禍の影響により、当初予定していた現地調査とアンケート調査の両方が実行困難になったためである。まず、令和2(2020)年度に予定していた代表者によるアメリカ合衆国での現地調査は、渡航制限により不可能となった。また、分担者によるアメリカ合衆国でのアンケート調査も、コロナ禍の影響を受け十分な回答が望めないと判断し、実施を令和3(2021)年度に延期した。そのため、令和2(2020)年度における分担者の直接経費の予算執行額は、ゼロとなっている。 今後の使用計画として、令和2(2020)年度の調査計画を、令和3(2021)年度に移行し、実施する。ただし、現在、アメリカ合衆国での現地調査の可能性は不透明なままである。現在の状況が継続する場合には、研究計画の1年延長を視野に入れ、今後、柔軟に対応する。
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Research Products
(3 results)