2020 Fiscal Year Research-status Report
高等教育におけるキャリア教育と社会正義に関する研究
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19K21798
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
前田 信彦 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (20222284)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | キャリア教育 / 社会正義 / ライフキャリア教育 / 教育基本法 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度は、実証的研究と理論的な研究を以下のように進めた。 第一に、量的・質的データを用いて大学生のキャリア意識の実態を明らかにした。PBL(問題解決型)キャリア教育とライフキャリア教育、社会正義志向、さらにキャリア教育とケアの倫理との関連性を多面的に分析した。さらに、修正グラウンデッド・アプローチ(M―GTA)用いた質的分析を併用しながら、大学生の経験と自己省察過程の詳細を実証的に明らかにした。第二に、これらの実証研究と並行して、キャリア教育の新たな方向性について教育基本法の審議等の政策過程を資料から検討した。特に旧)教育基本法第一条に掲げられた「教育の目的」にある「人格の完成」と「勤労」の概念に着目し,その成立過程を当時の教育刷新委員会の議事録から検討した。これを一つの補助線として用いながら,現代キャリア教育の思想的基盤について整理し、人格教育としてのキャリア教育の意義について考察を試みた。これらの成果は、以下の4つの論稿に取りまとめた。 ①「 大学におけるキャリア教育と社会正義─社会科学系学部の学生データを用いた探索的分析」『立命館産業社会論集』第56巻第1号 2020年6月発刊 ②「キャリア教育とケアの倫理─「生き方教育」としてのキャリア教育の探求─」 『立命館産業社会学論集』第56巻第2号 2020年9月発刊 ③「 大学生の職業キャリア意識に及ぼす経験と自己省察の多様性─修正グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)による分析─」『立命館産業社会学論集』第56巻第3号 2020年12月発刊 ④「キャリア教育の思想的基盤と潮流─『人格の完成』と『勤労』」 『立命館産業社会学論集』第56巻第4号 2021年3月発刊
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度は、主に、以下の三つの研究成果を得た。 第一に、大学生を対象としたアンケート調査に基づき、計量的分析のみならず修正グラウンデッドセオリーアプローチによる質的分析など、多面的な分析方法によりキャリア教育の実証的分析を行った。 第二に、「社会正義への志向」、「公共性への配慮」、「ケアの倫理」という要素を取り入れた新たなキャリア教育を「ライフキャリア教育」として、今後のキャリア教育の方向性を提起し、実践的なインプリケーションを得た。 第三に、キャリア教育の思想的基盤と理念について、文献資料を通して考察し、一元的能力主義から脱した新たなキャリア教育の可能性について理論的インプリケーションを得た。 以上の研究の進捗状況から、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となるため、本研究の前半で行った実証分析の結果およびそこで得られた知見をもとに、これからのキャリア教育の方向性について最終的な取りまとめを行う。 職業準備教育のみではない、生き方教育としての「ライフキャリア教育」の意義と課題を提起するとともに、研究の後半で検討したキャリア教育の基盤となる思想の考察から得られた知見をもとに、これからのキャリア教育の方向性に関する理念モデルを提示した研究報告書を作成する。
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Causes of Carryover |
昨年度は先行研究を整理する中で、本研究における調査方法についても吟味した。その結果、調査の信頼性を高めるために、予定していたアンケート調査の業者への発注は行わず、直接、自分自身でアンケート調査を実施することとなった。また、インタビュー調査に基づく質的調査も外部発注せずに実施した。そのため昨年度は調査への謝金や調査補助の人件費等のみの支出となり、未使用額が生じた。 未使用額は次年度に研究成果報告書作成の費用等に使用する予定である。
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