2021 Fiscal Year Research-status Report
負ミュオンスピン・インジェクションによる非磁性核における核スピン緩和測定法の実現
Project/Area Number |
19K21859
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
竹下 聡史 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 助教 (40450366)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2023-03-31
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Keywords | 負ミュオンスピン緩和法 / スピン緩和測定 / 分子運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、負ミュオンによるスピン緩和法を応用することにより、核スピンを持たない12C核において核スピン緩和測定を可能とする極めて画期的な手法(負ミュオンスピンインジェクション法)を実現するものである。さらに本手法応用することにより、高分子材料で重要、かつ他の測定手法では観測が容易ではないMHz帯における分子運動を同定する事を目的とする。 当該年度では、これまでに行った簡単な系での測定から発展させ、やや複雑な系におけるダイナミクスを明らかにする計画であり、トルエン、およびポリブタジエンへ本手法の適用を試みた。その結果、一つの水素原子核のスピンと負ミュオンのスピンの2スピン間の双極子磁場による超微細相互作用に対応する信号が得られ、さらにMHz領域における超微細相互作用の揺らぎ周波数をとらえた可能性が期待される結果を得た。一方で、負の電荷をもつミュオンが原子核に捕獲されることから、系がクーロン爆発を起こしている可能性について検証する必要性がでてきた。2022年度においてはこの点を検証するために、極めてシンプルな構造を有するエタン、エチレンでの実験を行う。また第一原理計算も並行して実施し、クーロン爆発のあるケース、ないケースについての超微細相互作用の値と実験結果を比較し、検証を行う。また、これまでのデータについてもより詳細な解析を行い、本手法により得られる微視的なダイナミクスの情報を明らかにしていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該年度においては、前年度に行ったポリエチレンから、二重結合を含んだ少し複雑な構造をとるトルエンおよびポリブタジエンに発展させ、測定、解析を行った。測定の結果、どちらの試料においてもミュオンスピン緩和スペクトルにおいて、回転信号が観測され、二重結合を有する系においても、超微細相互作用が検出可能であることが示された。一方で、原子核に電荷を有する負ミュオンを注入することによりクーロン爆発が生じている可能性が生じた。クーロン爆発が生じると元の化学構造を破壊してしまうため、系本来のダイナミクスを観測することが困難となる。今後の検証・検討が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
本手法確立の上で、得られるデータの信頼性を左右するクーロン爆発による影響の有無を調査するために、エタンやエチレン等のシンプルな系に立ち戻り、超微細相互作用の測定をを行う。また、第一原理計算も並行して実施し、クーロン爆発が生じた化学構造モデルと、生じていない化学構造モデルでの超微細相互作用の大きさを実験と比較し、クーロン爆発の影響の有無を明らかにする。
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Causes of Carryover |
負ミュオンスピンの原子核へのインジェクションによりクーロン爆発が生じている可能性が生じたため、これを検証するために計画を変更した。これにより次年度使用額が発生している。次年度において、主に検証実験のための装置整備に使用する予定である。
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