2019 Fiscal Year Research-status Report
液体金属-高分子コンポジットの創製とソフトロボティクス素子としての応用
Project/Area Number |
19K22216
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
上野 和英 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 准教授 (30637377)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
太田 裕貴 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 准教授 (30528435)
小久保 尚 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 特別研究教員 (80397091)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | 液体金属 / ゲル / イオン液体 / 電子伝導性 / イオン伝導性 |
Outline of Annual Research Achievements |
柔軟でしなやかな素材を用いたデバイス関連分野(ソフトエレクトロニクス、ソフトロボティクス)は医療分野をはじめ様々な応用展開が期待され、極めて重要な研究領域になっている。本研究では、液体金属と高分子材料がナノ・ミクロレベルで複合化された柔らかいコンポジット材料「メタルゲル」の研究分野を新規開拓し、それを電気化学アクチュエータ素子に適用することで、ソフトロボティクス分野へと展開することを目指す。柔軟材料の代表例である高分子ゲルはその媒体の種類によって分類される。液体金属を媒体とするゲルとして、液体金属と機能性有機高分子を複合化した柔軟性コンポジットを創製する。これを「メタルゲル」と呼称してゲルの新たなカテゴリーとし、それに関わる基礎学理を構築することも本研究の重要な目的の一つである。メタルゲルの最大の特徴はその変形の自由度と電子伝導性である。本研究ではメタルゲルの機能性を最大限に活かした応用展開として、メタルゲルがソフトロボット素子として利用可能なことを実証する。 本年度はメタルゲルを調製する方法論を確立することを目的とし、ゲル化高分子の溶液と液体金属Ga-Inの混合液をキャストすることで液体金属を含むメタルゲルの調製を検討した。微粒子化した液体金属を用いることで液体金属の漏れを抑制したメタルゲルを調製出来ることが分かった。 イオン液体を含むメタルゲルのイオン/電子伝導性を評価したところ、比較的高いイオン伝導性は確認されたものの、電子伝導性は極めて低いことが分かった。高分子マトリックスの液体金属粒子表面への吸着と液体金属表面の薄い酸化被膜が液体金属粒子間の大きな界面抵抗の要因であることが考えられた。 機械特性測定から、メタルゲルの固体的性質を確認した。また、メタルゲルの固体的性質は、液体金属粒子表面に形成される酸化被膜に大きく影響されていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は物理架橋点を形成し得る高分子の溶液と液体金属Ga-Inを機械的に混合し、溶媒除去する方法(キャスト法)によって液体金属を含むメタルゲルの調製法を確立した。特に、液体金属を有機溶媒中で超音波照射することによって数百ナノメートルサイズまで微小化すると、変形下においても液体金属の浸み出しを抑制でき、液体金属粒子/ゲル複合体のゲル膜が容易に得られることが分かった。 メタルゲルのイオン/電子伝導性を評価したところ、液体金属の体積分率が十分に高い状態であっても、10 mS/cm以下の低い電子伝導性しか示さないことが分かった。特に、メタルゲルの高分子マトリックスの影響を調査したところ、水素結合性高分子を用いた場合、液体金属粒子表面に吸着し、メタルゲル中の電子伝導を阻害していることが示唆された。また、空気中でメタルゲルを調製した際に形成される液体金属表面の薄い酸化被膜が大きな界面抵抗となり、メタルゲルの低い電子伝導性を引き起こす主な要因であることを明らかにした。更に、電気化学的な測定によりイオン液体をドープしたメタルゲルはイオン伝導性を示すことを確認した。 メタルゲルの機械特性を調査(引張試験・レオロジー測定)し、従来のゲル材料と同様に、軟らかい固体としての機械的性質を確認した。空気中で調製したメタルゲルは、液体金属を含まないリファレンスのゲルよりも一桁高い弾性率を示した。また、液体金属の体積分率が増加するほど、弾性率は高くなる一方、破断ひずみは小さくなった。これは、液体金属粒子表面に形成される酸化被膜が固体的に振る舞うことによるものであると考察された。
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Strategy for Future Research Activity |
メタルゲルの電子伝導性を高めることが急務である。このため、メタルゲル調製時の酸化被膜形成の抑制と非吸着性高分子マトリックスの利用を進める。これによって、当初の目的である液体金属バルクに近い電子伝導性を示すメタルゲルを創製する。また、液体金属粒子上への分子の吸着とその吸着層の電荷輸送への影響などは全く明らかになっていない。今後は、液体金属電極を用いた基礎的な電気化学測定からこれらの学術的課題に対しても検討を進める。 これまでに我々は高分子電解質を柔軟な電極で挟み込んだ電気二重層キャパシタに数ボルトの低電圧を印加するだけで屈曲動作する電気化学アクチュエータとなることを見出している。高い電子伝導性を示すメタルゲルを得たのち、これを柔軟電極とした電気化学アクチュエータを作成する。さらに、メタルゲルが優れた電気化学アクチュエータ素子であることを実証する。
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Causes of Carryover |
その他の装置の流用が可能となったため、本年度購入予定であった電子・イオン伝導性評価に用いるポテンシオガルバノスタットの購入を見送った。また、主に高分子・イオン液体は自ら合成することで試薬費が当初の予算よりも少ない結果となった。次年度は非酸素存在下でメタルゲルを調製するための設備および電気化学特性を解析する設備を新たに導入し、電子伝導性に優れたメタルゲルを実現する。このための予算として、次年度に用いたいと考えている。
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