2020 Fiscal Year Research-status Report
酵母に見出したプロリン代謝酵素の多機能性の解明と細胞機能の向上への挑戦
Project/Area Number |
19K22282
|
Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
高木 博史 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (50275088)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
向 由起夫 長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, 教授 (60252615)
那須野 亮 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (90708116)
|
Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
|
Keywords | 酵母 / Saccharomyces cerevisiae / 窒素源 / プロリン資化 / プロリントランスポーター / アルギニン |
Outline of Annual Research Achievements |
プロリンはワインの原料であるブドウ果汁に最も多く含まれているアミノ酸であるが、発酵中の酵母はプロリンをほとんど利用することができず、発酵後も多量に残存することが知られている。残存したプロリンは苦味の増加や酸味の減少を引き起こし、最終製品であるワインの酒質を低下させる。そこで、発酵環境下においてプロリンを効率良く資化できる酵母の創製を目的に、プロリン資化抑制に関わる因子を同定し、解析を行った。プロリン資化能を酵母の生育によって評価するために、プロリン要求性株を用いて解析したところ、ブドウ中に2番目に多い窒素源であるアルギニンが阻害因子であることを見出した。さらに、アルギニンはユビキチンリガーゼRsp5とそのアダプタータンパク質であるArt3依存的にプロリントランスポーターPut4のエンドサイトーシスを強力に誘導することで酵母のプロリン取込み能を抑制していることも判明した。現在、アルギニン存在下でもプロリン資化が可能な自然突然変異株を単離し、解析を行っている。 一方、酵母の寿命は分裂寿命と経時寿命に大別され、分裂寿命は母細胞から娘細胞が何回分裂できるか、経時寿命は分裂を停止した細胞がいつまで生存できるかをそれぞれ示している。今年度は細胞内プロリン含量が経時寿命に及ぼす影響について調べた。その結果、細胞内プロリン含量と経時寿命は無関係であり、プロリンオキシダーゼPut1をコードする遺伝子の欠損によって顕著に短くなることが判明した。Put1はプロリンを酸化分解し、電子とプロトンをミトコンドリア電子伝達系に送ることから、膜電位の形成維持に関わっている可能性がある。経時寿命は糖源が枯渇した条件下における細胞の恒常性維持であるため、プロリン-Put1経路によるエネルギー産生が経時寿命の制御に関わっている可能性がある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
プロリン代謝の新しい生理機能に着目し、プロリン資化抑制に関わる因子の同定とその作用機序の解析を行ったところ、プロリンの取り込みに関与するトランスポーター群(Gap1, Gnp1, Put4)およびプロリンの分解に関与する酵素(Put1, Put2)をコードする遺伝子の発現がアルギニンによって抑制されることを見出し、学会発表と特許出願を行った。今年度は、その結果を原著論文に纏めて公表するとともに、アルギニンがPut4のエンドサイトーシスを介してプロリンの取込みを抑制していることを見出し、原著論文として公表した。また、当初の計画に記載したプロリン代謝による細胞寿命の制御についても、昨年度は分裂寿命に関する結果を纏めた原著論文を公表した。今年度は、経時寿命に及ぼす影響を解析し、新規な知見が得られたため、現在原著論文を作製しており、次年度の早い時期に投稿の予定である。以上の理由により当初の計画以上に進展していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
1)アルギニンによるプロリン資化抑制機構を解明するために、アルギニン存在下でもプロリン資化が可能な自然突然変異株を取得する。取得した変異株については、全ゲノム解析を通して、プロリン資化抑制機構に関与する遺伝子の同定を試みる。また、同定した遺伝子を解析することで、プロリン資化抑制の詳細な機構を明らかにする予定である。 2)新規なアルギニン合成を介して細胞の抗酸化に関与する「N-アセチルトランスフェラーゼMpr1」が酵母の分裂寿命に及ぼす影響について、Mpr1をコードする遺伝子の過剰発現株、破壊株を用いて解析する。
|
Causes of Carryover |
当初の計画で使用する消耗品費については、既存の試薬や実験器具を使用することで抑制できたため。また、当初口頭あるいはポスター発表を予定していた各種学会がオンライン開催になり、旅費が発生しなかったため。次年度については、新たな研究を含めて研究全体を加速する目的でおもに消耗品費に使用する予定。
|