2020 Fiscal Year Research-status Report
Innovative method development to screen novel antimicrobial peptides by evolutionary genomics approach
Project/Area Number |
19K22294
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Research Institution | National Institute for Basic Biology |
Principal Investigator |
重信 秀治 基礎生物学研究所, 新規モデル生物開発センター, 教授 (30399555)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | 抗菌ペプチド / 次世代シーケンシング / 共生 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、昆虫=微生物共生系に着目した革新的な抗菌ペプチドの探索法を開発する。私は、昆虫アブラムシと共生細菌の間の共生の分子機構を解明する研究に従事してきたが、その過程で偶然に、ゲノムが明らかであっても従来の方法では同定が不可能な、新しいタイプの抗菌ペプチド群を発見した。また他の昆虫=細菌共生系にも新規抗菌ペプチドが多数存在する事に気付いた。そこで本研究で昆虫=微生物共生系のトランスクリプトームデータから新規抗菌ペプチドをシステマティックに探索する手法を開発する。昆虫=微生物 共生系を対象とする事により、共生進化のユニークな相互作用が生み出す、新たなタイプの抗菌性分子の発見が期待される。 今年度は3種のアブラムシのゲノム解読に成功した。そのうち2種についてはバクテリオーム(共生器官)のRNA-seqデータも取得できた。さらに、セミの一種の共生器官のRNA-seqも新たに実施して高品質なデータを得た。現在それらのゲノム・トランスクリプトームデータに基づいて新規抗菌ペプチドの予測のデータ解析を進めているところである。また、私たちが決定したシロアリの一種のゲノム情報から、新規抗菌ペプチドの候補を見出した。 昨年度までに同定していたアブラムシの共生的抗菌ペプチドBCRの機能解析に進展があった。また、2019年度に発表したBCRの機能解析に関する論文(Uchi et al., 2019)が、Microbes & Environments誌の年間ベスト論文賞に選ばれ表彰を受けた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は新たにアブラムシやセミで共生器官のRNA-seqに成功し、新規の抗菌ペプチドを同定するための基礎データが収集できたと言える。研究開始時には想定していなかったが私の研究室でアブラムシのゲノム編集技術を確立できたため、BCR遺伝子のいくつかは変異体を作出することができるようになり機能解析が進んだのは想定以上の進展だった。BCRの機能解析に関する論文が表彰を受けたことも喜ばしいニュースであった。このように、ゲノム・トランスクリプトーム・機能解析の面では想定以上の進展があり成果にもつながっている。一方で、タンパク質レベルでの機能解析、特に本研究の要である抗菌性の試験は当初の予定より遅延が見られる。このように、予想以上に進展している課題と、遅延している課題が混在する状況を勘案し、総合的には概ね順調に進展、と判定した。
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Strategy for Future Research Activity |
昆虫共生器官のRNA-seqデータ収集とデータ解析:本年度決定した新規昆虫ゲノムとバクテリオームRNA-seqのデータ解析がまだ完了していないため、それらの解析を継続する。同時に新たな昆虫=微生物の共生系のトランスクリプトーム解析も追加する。ただし、今年度は最終年度にあたるため、新規のトランスクリプトームのデータ収集は上半期までに完了し、後半はデータ解析とペプチドの解析に重点を置く。 RNA-seqデータから抗菌ペプチドを探索するプログラムの開発:RNA-seqデータをde novoアセンブリすることにより発現遺伝子のリファレンスを構築する。そこから抗菌ペプチドを探索するプログラムを開発する。それらは、ORF予測、分泌シグナル予測、配列類似性に基づいた高感度検索(隠れマルコフモデルなど)、配列類似性に依存しない抗菌ペプチド探索(等電点、分子量、アミノ酸残基の出現頻度、2次構造等を特徴量とした機械学習)から構成される。このパイプラインのうち、最後にあげたプロセス、つまり配列以外の情報を使った予測がまだ実装できていない。近年発展著しい機械学習の技術を積極的に取り入れつつパイプラインの開発を進める。 新規抗菌ペプチド候補を合成し抗菌活性を調べる:上記の解析で予測された抗菌ペプチド候補を合成し、抗菌活性を測定する。ペプチドの合成には次の3つの方法からそれぞれの候補に適したものを選択する。1) 化学合成、2)大腸菌の発現系、3)真核細胞(ピキア酵母やバキュロウイルス昆虫細胞)の発現系。抗菌活性は、培養阻害やKirby-Bauerテストなど定法に則って測定する。活性測定の対象微生物は、まず大腸菌を対象とし、解析系が確立したのちに、その他のプロテオバクテリア(α,β,γ)、グラム陽性菌、真菌へと広げる。
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Causes of Carryover |
ペプチド合成のために予算を計上していたが、年度内に合成まで至らなかったため。具体的には、合成の対象となる新規抗菌ペプチドを予測するためには、ゲノムやトランスクリプトームのデータ解析が先立たなければいけないが、それらのデータ収集は十分に進んだものの、抗菌ペプチドの予測のデータ解析の段階で想定以上に時間と手間を要した。今年度は予測のできた候補抗菌ペプチドから合成を進める計画である。外注サービスも積極的に利用して、次年度使用が発生したペプチド合成のプロセスを効率よく進める予定である。
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