2019 Fiscal Year Research-status Report
シングルセルATP分析・分離技術を用いたエネルギー代謝リモデリング機構の解析
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19K22386
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
今村 博臣 京都大学, 生命科学研究科, 准教授 (20422545)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | エネルギー代謝 / ATP / フローサイトメトリー / 蛍光バイオセンサー / FRET |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的を達成するためには、微細なATP濃度の変化を検出しノイズの大きい測定法にも対応するために、より蛍光シグナル変化量の大きい蛍光ATPバイオセンサーを開発する必要があった。そこで本年度は、既存のFRET型ATPバイオセンサーATeamNLを改変することで、FRETレシオ(アクセプター・ドナー蛍光強度比)変化が増大した新しい蛍光ATPバイオセンサーの開発をおこなった。ATeamNLは単量体型CFP(mseCFP)と単量体型YFP(cp-173-mVenus)を枯草菌ATP合成酵素のεサブユニットを介して融合した人工タンパク質であり、ATP結合時にεサブユニットが開いた構造から閉じた構造へと変化することでFRET効率が変化する。先行研究により、CFPとYFPに弱い二量体形成能を持たせることでFRETバイオセンサーのシグナル変化が増大することが示されているが、二量体モデルにおけるCFPのC末端とYFPのN末端の距離は、ATP結合状態のεサブユニットの両末端間の距離よりはるかに短い。そのため、ATeamのFRETレシオ変化の改善のためには、蛍光タンパク質へ二量体形成能を持たせるだけでなく、εサブユニットの両末端間の距離を最適化する必要があると考えられた。そこで、AT1.03NLの蛍光タンパク質に弱い二量体化変異(K206A)を加えると同時に、εと蛍光タンパク質間にグリシンリンカーを挿入した結果、FRETレシオ増加率が110%から240%へと大幅に改善された新規ATPセンサー“ATeamNL2”の作製に成功した。次にATeamNL2を安定発現したHeLa細胞を作成し、ATP合成阻害剤を加えた際のCFP蛍光とYFP蛍光の変化を蛍光フローサイトメーターで測定したところ、経時的なFRETレシオの減少が明瞭に観察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画では当初、ATeamNLとは別タイプの蛍光ATPバイオセンサーを用いることを想定していた。しかし、遺伝子ノックダウン・ノックアウトの際に用いる蛍光のシグナルと干渉する懸念が生じたため、ATeamNLを蛍光フローサイトメーターで用いることができるように改良する方針に改めた。そのため、計画より若干遅れが生じてはいるものの、ATeamNLの蛍光シグナルの大幅な改善に成功するという、計画では想定していなかった成果を達成している。新しい蛍光バイオセンサーの開発により研究の加速が期待されることから、計画からの若干の遅れも次年度で十分挽回できると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
ATeamNL2を発現するがん細胞株にレンチウイルスをベースとしたプール型CRISPRノックアウトライブラリーを感染させ、各細胞につき1つの遺伝子をノックアウトさせる。がん細胞ではワールブルグ効果によってATPの合成の大部分を解糖系に依存するため、酸化的リン酸化(ミトコンドリアにおける酸素依存的なATP合成)の寄与は極めて小さい。がん細胞においてワールブルグ効果を促進している遺伝子の発現が抑制された場合、酸化的リン酸化阻害剤によってATP濃度が大きく低下する、もしくは解糖系の阻害剤でATP濃度がほとんど低下しないと期待される。そこで、CRISPRを導入したがん細胞の集団を酸化的リン酸化阻害剤もしくは解糖系阻害剤で処理したのち、細胞内ATP濃度が大きく低下した細胞と低下しなかった細胞を分画し、両画分に含まれる各CRISPR配列を次世代シーケンサーによって比較することで、ワールブルグ効果が減弱した群で抑制されている遺伝子群を明らかにする。
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Causes of Carryover |
研究に若干の遅れが生じ、予定していた解析を行わなかったために次年度使用額が生じた。次年度使用額は、本来今年度行う予定であった解析をするために用いる予定である。
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