2019 Fiscal Year Research-status Report
宿主操作の分子・神経メカニズムから解き明かす生態系のエネルギー流
Project/Area Number |
19K22457
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
佐藤 拓哉 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (30456743)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岩谷 靖 弘前大学, 理工学研究科, 准教授 (10400300)
武島 弘彦 総合地球環境学研究所, 研究部, 外来研究員 (50573086)
佐倉 緑 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (60421989)
橋口 康之 大阪医科大学, 医学部, 講師 (70436517)
入谷 亮介 国立研究開発法人理化学研究所, 数理創造プログラム, 研究員 (10843980)
|
Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
|
Keywords | ハリガネムシ / 宿主操作 / トランスクリプトーム解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者はこれまで、宿主操作が捕食-被食関係を強めることで、生態系内外のエネルギー流を劇的に改変することを発見し、それが生物群集・生態系機能に及ぼす波及効果を世界に先駆けて実証してきた。研究代表者らはさらに、寄生者が中間宿主の行動を抑制化した後に活性化することが、激しい活性化操作をする(=劇的なエネルギー流改変を生じさせる)寄生者が自然界で維持される仕組みになることを、理論モデルに基づいて提唱した。本研究では、寄生者による行動抑制化から活性化へのシフトの有無と程度を、行動実験、神経生理学的解析・遺伝子発現解析、および数理モデル解析を統合するアプローチで検証する。 この課題に関して、現在までに特に、行動解析システムの確立を進めた。具体的には、ハリガネムシ(Paragordius varius)を実験的に感染させたヨーロッパイエコオロギ(Acheta domesticus)の歩行量を24時間継続して計測し、非感染のコオロギと比較することで、ハリガネムシ感染に伴う歩行量の日内変動の変化について評価した。その結果、コオロギは、感染の有無にかかわらず、薄明薄暮に歩行量を上昇させる傾向がみられた。一方、成熟したハリガネムシのみに感染していた宿主個体は、一日を通して非感染個体よりも歩行量が大きいものの、特に薄明薄暮と夜間の歩行量上昇が顕著であった。すなわち、ハリガネムシは、宿主のコオロギ本来の活動スケジュールに沿いながら、宿主が活動量を高める時間帯により強い操作を加えているのかもしれない。この行動観測システムをさらに拡張して、行動の抑制化から活性化に転じるという仮説を検証するより長期の行動観測データを取得予定である。その他、ハリガネムシに感染・非感染のカマキリをモデルとして、遺伝子発現データと生体アミンのデータを得た。これらを統合する数理モデル解析についても、基礎的なモデルを構築しつつある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現在までの進捗として、行動解析システムの確立を進めた。具体的には、まずハリガネムシ(Paragordius varius)を実験的にヨーロッパイエコオロギ(Acheta domesticus)に感染させるシステムを確立した。その上で。ハリガネムシ感染・非感染コオロギの歩行量を継続して自動追跡する行動解析システムを確立した。これにより、最大で10日以上の時系列データを自動的に取得することに成功した。観測期間については、今後さらに延長することで、行動の抑制化から活性化に転じるという仮説を検証するための、より長期の行動観測データを取得予定である。一方、ハリガネムシに感染・非感染のカマキリをモデルとして、トランスクリプトーム解析を実施する解析パイプラインを確立するとともに、解析の基となるゲノムデータの取得を行った。また、トランスクリプトーム解析の結果と行動解析の結果をつなぐ、生体アミンのデータを得た。現在、これらを統合する数理モデル解析についても、基礎的なモデルを構築しつつある。以上のことから、本研究課題については、当初の計画以上に進捗していると評価する。
|
Strategy for Future Research Activity |
ハリガネムシに感染・非感染コオロギやカマキリを用いて、さらに長期の行動追跡を実施することで、寄生者が宿主の行動抑制化から活性化に転じるという仮説を実際に検証する。さらに、そのような行動操作の時間的変化の原因となる遺伝子群について示唆を得るための、時系列のトランスクリプトーム解析と生体アミンの発現解析を実施する。最後に、それらの宿主個体の内的動態を明示的に考慮する数理モデルを構築し、仮説の検証を理論面からも強固にする。
|
Causes of Carryover |
宿主の走光性をテストするための行動解析システムを当初、2019年度内に確立する予定であったため、そのための予算を確保していた。しかし、活動量の時系列解析に予想以上の進展があったため、2019年度については、そちらの解析を重点的に進展させた。 2020年度には、上記の走光性検証のための行動解析システムを確立する。次年度使用額はそのための予算として使用予定である。
|