2019 Fiscal Year Research-status Report
脳内小棘構造(spinule)の機能解明に向けた解析基盤の構築
Project/Area Number |
19K22469
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
深澤 有吾 福井大学, 学術研究院医学系部門, 教授 (60343745)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
黒田 一樹 福井大学, 学術研究院医学系部門, 准教授 (60557966)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | Spinule / 電子顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、まだその機能的意義や正確な脳内分布が不明である小棘構造 (spinule)や多胞体 (multivesicular body; MVB)の観察に最適化した電子顕微鏡解析法を構築し、特にspinuleを中心に海馬CA1領域と小脳皮質における種類と分布と出現頻度を明らかにする。また、神経活動やシナプス可塑性と出現頻度や位置の関係について、遺伝子改変動物を用いた行動薬理学的手法と組み合わせて明らかにすることで、神経機能との関連性と制御に関わる遺伝子についての情報を取得する。本課題の実施により、正確な解析が不可能であった微小膜構造の解析基盤が構築でき、微小膜構造の制御機構や神経機能における役割を明らかにする端緒となる。さらに、現象自体の有無や意義が良く分かっていない「細胞質移行による細胞間情報伝達現象」の研究領域基礎を構築できる可能性が有る。 そこで、本年度は、計画していた(1)~(5)の実験計画のうち、(1)SpinuleとMVBの種類と形態的特徴、出現部位と頻度の解析と (3)SpinuleとMVBの周辺構造と内部構造の詳細解析について実施し、spinuleとMVBの形態的特徴と出現頻度を明らかにした。更に、これら微小構造の内部構造が観察できる試料調製法(電子染色法)の最適化にも成功し、本研究推進の実験基盤を固めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
遺伝子改変マウスを含む8週齢マウスを深麻酔下で灌流固定し、海馬と小脳の樹脂包埋試料を作製した。収束イオンビーム搭載高分解能型走査型電子顕微鏡 (FIB-SEM)を用いてこれら試料の連続電子顕微鏡像を撮影(分解能; XY = 2 nm, Z = 10 nm, 観察体積 約1000 um3)した。この画像を用いて以下の検討を実施し、結果を得た。 実験(1)SpinuleとMVBの種類と形態的特徴、出現部位と頻度の解析 海馬CA1放射状層および小脳分子層のspinuleとMVBについて、その種類や構造情報(長さと体積、断片の有無)を計測し、更に出現場所と頻度を計測した。 実験(3)SpinuleとMVBの周辺構造と内部構造の詳細解析 現在のFIB-SEM画像は、生体膜構造の可視化に最適化された試料作製法と観察条件に従って取得しているため、タンパク質を主体とした超微細構造の情報に乏しく、微小膜の内外の構造視認性が低い。そこで、まず初めに電子染色法による観察像の違いと電子顕微鏡観察時の撮影条件の至適条件を検討した。 これら検討は当初の予想よりも困難であったため、予定よりも時間と労力を要したが、観察条件と計測手法を最適化することができ、今後の解析の基盤は十分に構築できたと考えられたので、順調と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度の実績を踏まえ、以下の3つの実験項目を実施する。 実験(1)と実験(3)の計測結果の集計を行い論文発表用データにする。また、今年度実施予定であった、実験(2)神経活動変化やシナプス可塑性とspinuleの分布(出現頻度)変化の解析、(4)Spinuleの形成と維持へのarcの関与の検証、(5)経シナプスウイルス伝播現象へのspinuleの関与の検討を実施する。 実験(2)神経活動変化やシナプス可塑性とspinuleの分布(出現頻度)変化の解析 新奇環境下で行動後の野生型マウスと豊富環境下で飼育された野生型マウス、NMDA受容体阻害薬を投与した野生型マウスを用いて、実験(1)と同様な解析を行う。 (4)Spinuleの形成と維持へのarcの関与の検証 神経活動依存的に発現増加するarcがキャプシド構造を形成して arc mRNAやarcタンパク質の細胞間移行に関与することが報告されているので、arc遺伝子の欠損マウスと遺伝子導入マウスの海馬CA1領域における、spinuleとMVBの出現頻度、分布、構造情報について調べることで、これら微小膜構造の形成と維持におけるarcの役割について明らかにする(鹿児島大学奥野教授、東京大学尾藤教授との共同研究)。 (5)経シナプスウイルス伝播現象へのspinuleの関与の検討 ある種のレクチン(糖鎖結合タンパク質)やウイルスは神経細胞間を経シナプス的に伝搬する。順行性に伝搬するレンチウイルスやアデノ随伴ウイルス (AAV)、逆行性に伝搬する狂犬病ウイルスやAAVを、CA3領域とCA1領域にそれぞれ微量注入したマウスを作製し、電子顕微鏡観察によりウイルス粒子の局在を可視化し、spinuleとMVBへの取り込みや集積が起こるかを検討する。
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Research Products
(6 results)