2020 Fiscal Year Research-status Report
霊長類セロトニン系の光操作による心と体の相互関係のメカニズムの解明
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19K22582
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Research Institution | Kansai Medical University |
Principal Investigator |
中村 加枝 関西医科大学, 医学部, 教授 (40454607)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
永安 一樹 京都大学, 薬学研究科, 助教 (00717902)
山中 航 順天堂大学, スポーツ健康科学部, 助教 (40551479)
安田 正治 関西医科大学, 医学部, 講師 (90744110)
栗川 知己 関西医科大学, 医学部, 助教 (20741333)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2023-03-31
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Keywords | 拡張扁桃体 / 黒質網様体 / 背側縫線核 / 分解条床核 / セロトニン / 光遺伝学 / 眼球運動 / ストレス |
Outline of Annual Research Achievements |
情動が変化すると、自律神経系(体)の変化に加え、認知や行動(心)の変化が起きる。扁桃体の神経活動は快・不快の情動覚醒を表現し、血圧変化などの自律神経反応を惹起し、ストレスに対応する体の反応を引き起こす。一方、大脳皮質―基底核回路は抑制・脱抑制機構により認知や行動選択といった心の制御に関わる。本研究は、行動課題を行うサルとマウスにおいて、扁桃体―大脳基底核回路の異なる領域の活動性を特定のタイミングで操作し、自律神経反応の変化と、同時に起きる認知・行動の変化がいかなるメカニズムで起きるかを解明する。さらに、その過程が異なる情動コンテキストでどのように変化するかを解明する。操作は電気刺激に加え、研究分担者の永安一樹氏(京都大学)が開発したウイルスベクターを用いて、大脳基底核網様体および扁桃体に投射の強いセロトニン細胞選択的な光刺激を行う。以上により扁桃体→大脳基底核回路のコンテキスト・領域・タイミング・物質特異的な変化が体と心を変容させるプロセスを明らかにする。2019年度は(1)行動課題遂行時の顔温度、瞳孔径といった自律神経反応を霊長類とげっ歯類で記録するシステムの構築と(2) 霊長類におけるセロトニン操作のための背側縫線核へのウイルスベクターの注入、光操作の導入を行った。2020年度は霊長類においてはセロトニン細胞が多く存在する背側縫線核の課題関連神経活動を記録し、行動や自律神経反応と関連付けた。さらに、光刺激を行い、行動の変化を解析した。げっ歯類においても研究分担者の山中航氏(順天堂大学)が、古典的条件付け時の、報酬・嫌悪条件刺激に対する血圧・心拍という心血管系の変化を明らかにした。扁桃体・大脳基底核とセロトニン投射による、異なる情動下での行動変容のメカニズムを明らかにするため、さら光遺伝学的操作による実験を進めていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、サルが嫌悪刺激を予測しつつ選択を行う眼球運動課題を用い、背側縫線核(セロトニン細胞が多く存在)の課題関連発火を記録し、ストレスレベルを反映する自律神経反応、選択行動や衝動的行動との関連を解析した。背側縫線核には、嫌悪刺激または報酬に強く反応する細胞があるが、嫌悪刺激に強く反応するタイプは、嫌悪刺激を予測する、すなわちストレスレベルが高い状態で選択課題を行っている際、発火頻度が高いほど、正しい(報酬を得られる)選択が起きた。これは、背側縫線核は、ストレスに対するレジリエンスに関与している可能性を示唆する。 さらに、2019年度に研究分担者永安一樹氏が開発したセロトニン細胞特異的にチャネルロドブシンを発現するAAVベクターを、カニクイサルFのセロトニン細胞が存在する背側縫線核に注入し、光刺激への反応を確認した。2020年度には、もう一頭の個体Aに5倍濃度のウイルスベクターを注入し、より良好な光への反応を得た。このサル2頭を用いて、異なる報酬量を期待する眼球運動課題と、嫌悪刺激を予測しつつ選択を行う眼球運動課題において、背側縫線核セロトニン細胞・さらに背側縫線核からの投射を受ける黒質網様部と緻密部、腹側被蓋野の光操作を行った。刺激効果は、光照射のタイミング・コンテキスト依存的であり、不利な状況(報酬が少ない)でも行動を起こす際に顕著であった。山中航氏(研究分担者)はラットにおいてすでに中心核の電気刺激が血圧の変動を引き起こすことを示しているが、さらに、古典的条件付けにより、嫌悪条件刺激に対しては血圧低下・心拍低下、報酬条件刺激に対しては血圧・心拍上昇という心血管系の変化が見られることを明らかにした。以上、実験系の確立とデータの取得・解析が順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで実験を進めた個体F,Aについては還流固定を行ったので、これらの組織的解析を行い、ウイルスベクターのセロトニン細胞選択性を確認する。 また、背側縫線核の投射先である黒質網様部・緻密部、腹側被蓋野の刺激効果については実験が進んだので、2021年度は、これに加え、分界条床核・扁桃体中心核の課題関連活動記録と光操作の影響を調べる。光刺激に応じるセロトニン細胞の投射を受ける細胞が、報酬や嫌悪刺激の期待にどのように反応するか、異なる情動下での行動とどのような関連性があるか、さらに心拍・顔面温度・瞳孔径を含む自律神経反応の変化も確認する。 また、扁桃体系の分界条床核、大脳基底核系の黒質網様部ニューロンの課題関連活動を同時記録するシステムを構築する。多点電極から得られる複数のニューロンの神経発火を同定し、課題関連活動が、分界条床核、大脳基底核系と黒質網様部でどのように異なるか、さらに領域間の関連を行動や自律神経反応と関連させつつ解析する。例えば、扁桃体系(分界条床核)の神経活動が大脳基底核系(黒質網様部)より優位なら、交感神経優位で黒質網様部による抑制機能が弱くなり、衝動的反応が目立つ。大脳基底核系が優位な場合は黒質網様部による抑制機能が強く、しかも報酬獲得行動も亢進すると予想している。げっ歯類についてはウイルスベクターを注入し、扁桃体諸核の光刺激による自律神経反応の変化や行動の変化を明らかにする。
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Causes of Carryover |
研究分担者の栗川氏は、予定していた学会出席が感染症対策のため見送られた。さらに、その費用を次年度の解析に必要なデータ媒体に用いることとした。
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[Journal Article] Acute restraint stress augments the rewarding memory of cocaine through activation of α1 adrenoceptors in the medial prefrontal cortex of mice.2020
Author(s)
Wada S, Yanagida J, Sasase H, Zhang T, Li X, Kamii H, Domoto M, Deyama S, Hinoi E, Yamanaka A, Nishitani N, Nagayasu K, Kaneko S, Minami M, Kaneda K.
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Journal Title
Neuropharmacology.
Volume: 166
Pages: 107968
DOI
Peer Reviewed
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