2019 Fiscal Year Research-status Report
白血病幹細胞におけるシェルタリン因子TIN2の機能解明と新規治療法開発への応用
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19K22638
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
新井 文用 九州大学, 医学研究院, 教授 (90365403)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | TIN2 / シェルタリン / 白血病幹細胞 / 造血幹細胞 / POT1 |
Outline of Annual Research Achievements |
染色体末端のテロメアは、その構造から損傷DNAと誤認され、不必要なDNA修復応答(DDR)が働く可能性がある。シェルタリン複合体(TRF1、TRF2、RAP1、POT1、TPP1、TIN2の複合体)はDDRを抑制し、テロメアの保護に働いている。正常造血幹細胞において、TIN2はPOT1-TPP1と結合して核内移行し、シェルタリン複合体を形成に寄与する。POT1、TPP1の発現が低下した場合、TIN2はミトコンドリアに移行してROS産生を亢進させる。急性骨髄性白血病の幹細胞分では、ミトコンドリアTIN2が増加しており、これがエネルギー産生、増殖・維持に寄与している可能性が考えられた。本研究では、①TIN2の細胞内局在の変動が造血幹細胞の機能に与える影響を明らかにする。また、②白血病幹細胞におけるミトコンドリアTIN2を介したエネルギー代謝調節機構とROSに対する抵抗性・生存優位性を規定する機構を明らかにする。さらに、正常造血幹細胞との「違い」を基に、がん治療のための新規標的を同定し、がん幹細胞の選択的除去に向けた技術基盤を確立することを目的として研究を進めている。 1. TIN2の細胞内局在の変化が正常造血幹細胞の機能に及ぼす影響の解明 細胞内局在がミトコンドリアに限定されるTIN2の変異体TIN2[F37D/L38E]を造血幹細胞に導入し、代謝と自己複製に対する作用を解析した。TIN2[F37D/L38E]導入造血幹細胞では、ROSの産生亢進、さらには骨髄再構築能の低下が見られた。 2. POT1によるTIN2の局在制御 Pot1aノックアウト(KO)マウス造血幹細胞におけるTIN2の局在を解析した。Pot1a KO造血幹細胞ではミトコンドリアTIN2が増加することが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. TIN2の細胞内局在の変化が正常造血幹細胞の機能に及ぼす影響の解明 TIN2のN末端にはミトコンドリア移行に必要な配列(MTS)とTPP1結合配列(TRD)が重複して存在している。TIN2の局在がミトコンドリアに限定されるTRDの変異体TIN2[F37D/L38E]造血幹細胞に導入して造血幹細胞の代謝に及ぼす作用を解析した。その結果、ミトコンドリア膜電位の増加と細胞内ROS産生の亢進が見られた。さらに、TIN2[F37D/L38E]造血幹細胞の骨髄移植実験の結果、骨髄再構築能の低下が見られた。 2. POT1によるTIN2の局在制御 TIN2はTPP1-POT1複合体と結合することで核内に移行する。このことからPOT1およびTPP1がTIN2の細胞内局在制御に関わると考えられる。そこで、Pot1aノックアウト(KO)マウス造血幹細胞におけるTIN2の局在解析とPot1a KO造血幹細胞の代謝に関連した解析を行った。その結果、Pot1a KO造血幹細胞では、ミトコンドリアTIN2が増加することが分かった。また、Pot1a KO造血幹細胞では、ATP合成量やミトコンドリア膜電位、ROS産生量の増加がみられ、代謝が亢進していることが示唆された。 これらの結果から、造血幹細胞の機能制御には、POT1-TPP1-TIN2の量的バランスの維持によって、TIN2の局在が適切に制御されることが重要であると考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究結果から、正常造血幹細胞においてはTIN2のミトコンドリアへの局在(ミトコンドリアTIN2)が自己複製能を低下させる原因となることが分かった。今後は白血病幹細胞におけるミトコンドリアTIN2の機能解析を重点的に進める。 1) 白血病幹細胞におけるミトコンドリアTIN2の機能実態の解明:MLL-AF9を導入して得られたL-GMPおけるTIN2の局在、代謝、ROS産生を解析する。 2) ミトコンドリアTIN2のL-GMPに対する作用の検討:L-GMPにTPP1とPOT1aを導入し、TIN2のミトコンドリアへの局在を抑制する。本研究では、テロメア1本鎖DNAへの結合に必要なOB-foldドメインを欠失させた変異体(POT1a-ΔOB)の可溶型タンパクを用い、Shelterin複合体形成を抑えつつ、TIN2のミトコンドリアへの局在抑制を目指す。さらに、骨髄移植を行い、AML発症および生存期間に対する効果を明らかにする。 3) ミトコンドリアTIN2抑制によるL-GMPの機能抑制:TIN2のミトコンドリア移行に必要な配列(MTS)の変異体、TIN2[K62A/K64A]をCRISPR-Cas9システムによりL-GMPに導入し、TIN2のミトコンドリア局在を抑制する。また、TIN2[K62A/K64A]導入L-GMPのエネルギー代謝の変動を明らかにする。さらに、TIN2改変L-GMPをレシピエントマウスに移植し、白血病発症および生存期間に対する効果を明らかにする。
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