2019 Fiscal Year Research-status Report
腸内細菌叢は運動と成体海馬神経新生をつなぐミッシングリンクか?
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19K22812
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
神野 尚三 九州大学, 医学研究院, 教授 (10325524)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | 腸内細菌叢 / Lactobacillus casei / 成体海馬神経新生 / 短鎖脂肪酸 / 加齢 |
Outline of Annual Research Achievements |
無菌マウスにおいて視床下部-下垂体系におけるストレス反応が亢進していることを示した日本発のエポックメイキングな研究以来、腸内細菌叢と脳機能の連関についての研究が急増している。複数の研究によって、乳酸菌やビフィズス菌などのプロバイオティクス製剤やオリゴ糖などプレバイオティクス製剤の投与による腸内細菌叢の改変が記憶や学習などの脳機能を改善する可能性があることが報告されている。我々も近年、認知と情動の神経基盤の一つである成体海馬神経新生と腸内細菌叢の連関についての研究に取り組んでいる。興味深いことに、運動に伴って腸内細菌叢の変化が起こることも報告されている。動物実験では、運動によって腸内細菌叢の構成が変化することや、便中のSCFA濃度が変動することが明らかにされている。また、10週間の運動療法に取り組んだ肥満症の患者では腸内細菌叢が変化していることや、腸内細菌叢の改変によって精神症状が改善することが報告されている。一方で、運動には成体海馬神経新生の促進作用があり、ストレスには抑制作用があることも広く知られている。我々は、豊かな環境やストレスによる成体海馬神経新生の促進や抑制には、歯状回のコンドロイチン硫酸が関わっていることを報告したが、その機序は不明のままである。これまで、運動による成体海馬神経新生促進の分子メカニズムは、骨格筋から放出されるイリシンなどのホルモンによる直接的な神経作用によるものと考えられてきたが、詳細は分かっていない。このため我々は、運動は腸内細菌叢の中間代謝物 (短鎖脂肪酸 SCFA等) を介して間接的に神経新生を促進するとの仮説に基づく分野横断的な研究に取り組んでおり、これまでに加齢モデルマウスの腸内細菌叢を改変することで中間代謝物を介して成体海馬神経新生が促進されるメカニズムを見出している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究では、マウスにLactobacillus caseiを4週間投与し、成体海馬神経新生の変化を検討した。オプティカルダイセクター解析では、若齢マウスにおいては神経新生の明らかな促進効果は認められなかったが、加齢マウスにおいて、Lactobacillus caseiの投与によって神経前駆細胞と新生ニューロンの密度が増加する結果が得られた。Neurolucidaによる三次元再構築では、Lactobacillus caseiの投与によって、新生ニューロンの樹状突起の長さが伸展し、分岐の数が増加することが示された。これらの結果は腸内細菌叢の改変によって、神経新生が促進される可能性を示唆している。また、行動解析によって、Lactobacillus caseiを投与したマウスでは、新奇物体認知試験における記憶力が改善されることが示されている。糞便中の特定の短鎖脂肪酸の濃度が上昇していることが明らかになったため、実験的に特定された短鎖脂肪酸の投与を行ったところ、神経新生が促進することを確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
実験1:抗生物質による腸内細菌叢の撹乱と自発運動の効果:のカクテルを飲水に加えて4週間投与し、腸内細菌叢を撹乱する。対照群のマウスは通常の飲水とする。前処置を開始して3週間目に、レトロウィルスを海馬歯状回に注入する。 実験2:分子マーカーに基づき神経幹細胞や神経前駆細胞、新生ニューロン等の分布密度を計測する。さらに、GFP陽性新生ニューロンの3次元再構築とスパイン形態の解析を行う。これらから、神経新生の促進と抑制、新生ニューロンの成熟度を評価する。新規物体認識試験 (参照記憶) に加えて、高架式十字迷路試験とオープンフィールド試験 (不安様行動) を行いて、認知・情動機能を評価する。 実験3:FACSを用いてGFPを発現した神経幹細胞や新生ニューロンを分取し、神経新生にフォーカスしたPCR Arrayによって遺伝子のプロファイリングを行う。また、GFP陽性細胞から採取したDNAを対象として、抗メチル化DNA抗体を用いるChIPアッセイを行い、得られた遺伝子発現変動がDNA修飾に依存するかどうかを解析する。 実験4:運動による神経新生の促進に関わり、抗生物質による腸内細菌叢の撹乱によって失われる中間代謝物 (SCFA) の候補 (物質X) を実験1-3の結果から絞り込む。さらに、物質Xをマウスに与えた場合、自発運動を行った場合と同様の神経新生の促進と認知・情動機能の改善、遺伝子発現変動、DNA修飾などが認められるかどうかを確認する。
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Causes of Carryover |
本年度は遺伝子改変マウスの導入とそのbreedingに時間を要した。このため、加齢マウスを用いた予備実験を中心に実験に取り組んだ。その結果、見込みよりも消耗品費がかからず、次年度使用額が生じた。
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Research Products
(11 results)