2019 Fiscal Year Research-status Report
農業地域における技術進化の過程とメカニズム―日本の米品種の変遷を事例として―
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19K23130
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小林 基 大阪大学, 文学研究科, 助教 (10845241)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | イノベーション / 普及 / 進化的アプローチ / 農業 / 品種 / ユーザー / 市場創造 |
Outline of Annual Research Achievements |
計画初年次に当たる2019年度は、文献・統計資料の調査と聞き取りを通じて、育種・試験栽培と奨励品種の選定過程、流通計画またはマーケティング、ブランド戦略の策定、農家への普及活動について情報を集める予定としていた。 まず文献・統計資料について、国会図書館等での資料調査により、研究開発・普及についての国政レベルでの方針の推移についてや、育種および品種の推移についての全国的な傾向についての情報が集まってきているといえる。今後収集した資料についての分析を行いつつ、並行して県レベルの情報についても精度を高めてゆく必要がある。 文献・統計資料の収集分析に予想以上に時間がかかり、聞き取り調査は、当初の計画よりやや遅れることになった。さらに、2020年2月の下旬以降は、新型コロナウィルスの流行によって出張が困難になり、あらたに聞き取り調査を遂行することが困難になった。このため、調査対象地での聞き取りについては進捗が遅れている状況である。 一方で、当初予定していた以上の成果もあった。米の育種目標については、1970年代以降に食味を重視する品質に関する価値基準が優先され、これがコシヒカリ優勢につながった。他方、近年では実需者による米の消費傾向の多様化と用途開発が、育種目標と品種の多様化に結果している。従来の地理学におけるイノベーション研究において、実需および消費サイドがイノベーションいかに貢献するかについては等閑視されがちであり、これについて検討するための方法論について検討する必要性が生じている。報告者は、主に経営学における市場創造研究の成果を、地理学的研究に活用する方法を模索し、日中韓の地理学国際会議での口頭発表および、小林基(2019)「技術の復活:経済地理学におけるイノベーション研究の深化に向けて」待兼山論叢(日本学篇)53: 19-37、として報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
必要な文献資料および統計データについては順調に収集が進んでおり、気候気象をはじめとする自然地理学的条件の差異、国によって育種の研究拠点とされた研究機関の立地が、品種のバリエーション、構成とその変化に影響を及ぼしている実態が確認できつつある。 しかしながら、年度の終盤に実施予定であった聞き取り調査は、新型コロナウィルスの拡散にともない延期せざるをえなかったため、この部分での進捗が大きく阻まれた。この結果、収集した統計データおよび文献から、想定される仮説を検証することに着手できていない状況であり、研究進捗がやや遅れていることを認めざるを得ない。また、今後ひとたび事態が落ち着いた場合においても、面会や接近しての聞き取りが難しいなど、調査に際して様々な障壁が生じる場合が想定される。調査の効率が悪くなる場合には計画の修正も余儀なくされると考えられるものの、本報告書を執筆している6月初めの段階では、ウィルスの流行はやや落ち着きつつあり、本計画への支障を最小限にするよう努めたい。 この一方で、市場創造研究を参照しつつ、今後の当該分野の研究に必要な視点を整理し、報告できたという成果については強調しておきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の2019年を終えた現段階では、特に対象とする諸県での資料収集ならびに現地調査がやや遅れており、2年目である今年度には、キャッチアップするように努めたい。8・9月を中心に、対象とする四県の図書館ならびに関係機関での文献資料の収集を行い、並行して育種・普及に携わる関係者や農家を中心に聞き取りを行ってゆくこととしたい。このためにかかる出張旅費を、今年度予算に計上したいと考えている。2020年6月初めの段階においては、新型ウィルスの流行はやや落ち着き始めているものの、密室での聞き取りや接近しての聞き取りは難しく、調査を効率的に遂行することが難しい可能性も予想される。こうした場合には、一回当たりの調査で得られる情報が少なくなり、現地に行かなければならない回数が増えることも予想される。電話、電子メール、FAX、図書館による文献資料の複写郵送サービス等も効果的に使用し、効率的に、また、調査者と対象者の双方にとって安全に情報を収集し、本研究計画への支障が最小限になるように努力する。 次に、主に年度の後半以降には、学会・論文での成果報告について、年度末に開催される日本地理学会や農業経済学会での発表が行えるよう準備を進める。また、研究成果について英語での論文および研究レポートを執筆し、海外の学術雑誌に投稿することとしたい。学会への出張旅費、ならびに、英文校閲費用、また、前年度に執筆した市場創造に関する論文等の英文への翻訳費用を、今年度予算の中に加えたいと考えている。
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Causes of Carryover |
次年度使用額は、文献および統計資料収集・整理に予想以上に多くの時間を要し、研究対象地域での聞き取り調査のための出張を延期したことにより発生した。2019年2月および3月にキャッチアップのために予定していた出張を、パンデミックの影響により中止とせざるを得なくなったことも要因となった。次年度は、主として本研究のための調査旅費、成果発表のための出張ならびに、論文での成果発表のための日本語原稿の英文への翻訳、英文原稿の校閲にこれらの費用を充てる予定である。
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Research Products
(2 results)