2019 Fiscal Year Research-status Report
違憲審査基準の適用方法に関する体系的分析――合理性の基準と合憲性推定を中心に――
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19K23154
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
伊藤 健 京都大学, 法学研究科, 特定助教 (40849220)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 違憲審査基準 / 合理性の基準 / 合憲性推定 / 立法事実 |
Outline of Annual Research Achievements |
合理性の基準自体は、アメリカでは19世紀からみられる。しかし、3つの一般的な審査基準からなる違憲審査基準論は、20世紀半ば以降に確立したという理解が一般的である。そのため、本研究課題の1年目にあたる令和元年度には、まず、憲法訴訟論や人権論に関する日本・アメリカの学説を考察することで、検討対象とする時代を現代からどこまで過去に遡るのかを画定することを予定していた。この計画にしたがって検討を進めた結果、アメリカでは、合理性の基準を適用した現代の判例においても、20世紀初頭の2つの判決が先例として引用されていることが判明した。それゆえ、令和元年度は、第1に、本研究課題で検討対象とする時代を、概ね、現代的な違憲審査基準論が確立した20世紀半ばから、現在でも先例として引用されている判決が下された20世紀初頭までとすることに決定した。 このような検討対象とする時代の画定と並行して、令和元年度には、第2に、合理性の基準の実体的内容に関する日本・アメリカの学説も考察した。そこでは、合理性の基準には、「最低限の合理性の基準」と呼ばれるものと「かみつく力をもった合理性の基準」と呼ばれるものの2種類が存在するという主張があることを確認することができた。この結果を受けて、検討するべきアメリカの判例の候補を20件程度に絞り、それらの大まかな整理を行った。 第3に、令和元年度は、合理性の基準を、訴訟法や統治機構論との関係でも検討していくための下準備として、手続的側面の問題である合憲性推定や裁判所による議会に対する敬譲に関する日本・アメリカの学説の検討も付加的に行った。その結果、合理性の基準の検討を行うにあたっては、他の一般的な審査基準と比較しても、手続的側面の問題がより一層重要な役割を果たしていることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和元年度は、研究実績の概要にも記したように、①検討対象とする時代の画定、②合理性の基準の実体的内容に関する日本・アメリカの学説の検討と、それを受けた合理性の基準に関する判例の選別とその大まかな整理、及び、③手続的側面の問題に関する日本・アメリカにおける学説の検討という大きく3つの作業を進めることができた。 当初の予定では、①検討対象とする時代の画定を中心に、③日本・アメリカにおける手続的側面の問題に関する学説の検討を付加的に行うことができれば、十分であると考えていた。それだけに、令和2年度に行う予定であった②合理性の基準に関する判例の整理を、大まかにであれ、令和元年度中に行うことができたということは、本研究課題の最終年度である令和2年度に研究成果をまとめて学術論文として公表するにあたっての、理論的な検討を深める時間的余裕を確保することができたものと考えている。 しかし、理論的な検討を進め、合理性の基準についてのあるべき適用方法を構築していくに際しては、アメリカの判例をより慎重かつ丁寧に検討する必要があり、それには予想以上に時間がかかることも想定される。 したがって、令和元年度の進捗状況としては、「当初の計画以上に進展している」といいうるものの、今後の研究計画を推進するにあたっての自戒を込めて、「おおむね順調に進展している」との自己評価にとどめるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度は、第1に、令和元年度に選別し大まかに整理した合理性の基準に関する判例の理論的な検討をさらに進める、その際には、実体的な内容としては、アメリカの学説において提唱されていた「かみつく力をもった合理性の基準」という構想を参考にしつつ、手続的側面の問題としては、合憲性推定に関する議論をはじめ、裁判所による議会に対する敬譲に関する議論をも参考にし、そのような構想・議論を日本に応用することができるのかを検討することを通して、合理性の基準についてのあるべき適用方法を描き出したい。 第2に、訴訟法などの他の法分野や経済学などの他の学問分野などとの接合をも視野に入れつつ、合理性の基準が適用される場合に違憲審査を行う際の指針や論証すべき立法事実を、裁判所及び訴訟当事者双方に対して提示することができるような理論体系の構築を目指す。その際には、統治機構の中で裁判所が果たすべき役割という観点からの検討も行いたい。 第3に、日本では、合理性の基準を適用したと評されてきた判例も多く存在するため、これまでの過程で理論的に再構成した合理性の基準を用いて、日本の判例の再構成も行いたい。 そして最後に、以上の研究から得られた成果を学術論文として公表することを最終目標とする。
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