2019 Fiscal Year Research-status Report
「自然」をめぐる社会管理の行政学研究:政策ネットワークの構造に関する比較事例分析
Project/Area Number |
19K23170
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
若林 悠 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任助教 (80843250)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 社会管理 / 政策ネットワーク / 気象行政 / 地震火山行政 / 緑化行政 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「自然」現象を扱う行政活動がどのように社会管理を行っているのかを明らかにすることを目的としている。この課題に対して本研究は、①個別行政領域の実態把握を行うこと、②先行研究の渉猟とレビューによる分析視角の精緻化を図ること、③政策ネットワーに着目して複数行政領域の比較分析を行うこと、という3つのアプローチから取り組んでいる。 本年度は、当初の計画に沿って次のような作業に従事した。第1は、気象行政、地震火山行政、緑化行政を中心とした資料調査・閲覧・収集を行った。また以前にインタビュー調査を報告書にまとめた造園学者と議論を重ね、造園学と緑化行政の関係について貴重な知見が得られた。さらに気象庁の関係者にインタビュー調査を実施し、気象行政の現状や地震火山業務の歴史を捉えるための重要な情報を得ることもできた。 第2は、従来の科学技術と官僚制に関する分析視角の精緻化を図るため、先行研究の文献渉猟とレビュー作業に取り組んだ。政治学や行政学の文献のみならず、科学社会学や技術史などの関連文献も精力的に読み込むことで、政策ネットワークの実態や社会管理の技術を捉える理論的な手掛かりを発見した。 第3は、行政の「専門性」と独立性の議論に緊密に関わる会計行政などの調査や、自然科学の研究者との議論を重ねることにより、技術者集団固有の「専門性」の構築や行動様式を把握し、技術官僚に適用するための分析視角の重要性を再確認することができた。これにより、「自然」現象を扱う行政活動の間での比較に向けた事例分析の着想が得られた。 第4に本年度は、研究成果の公表にも取り組んだ。具体的には、研究期間中に得られた知見を加味しつつ、地質学史懇話会の会報と『現代思想』にそれぞれ気象行政に関する論考を公表することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、研究計画に沿って、資料調査や成果の公表など順調に遂行することができた。第1に気象行政、地震火山行政、緑化行政を中心に基本的な行政資料を収集し、基礎的な考察が進展した。また複数の気象庁関係者にインタビュー調査を行うことができ、気象行政の歴史的経緯を捉えるための口述資料も得ることができた。 第2に、先行研究の文献渉猟とレビュー作業に取り組むことにより、分析視角の精緻化への手掛かりを得た。具体的には、政策ネットワーク論や社会管理論の成果を既存の「専門性」論や「評判」論とどのように接合するのかが重要であるという点である。 第3に本年度は、研究期間中に得た知見を活用しつつ、成果を公表することができた。地質学史懇話会の会報と『現代思想』にそれぞれ気象行政に関する論考を公表した。また造園学者に対して行ったインタビュー調査の資料の精読を改めて行い、研究会では日本の緑化行政について研究成果を発表することができた。 以上の3点から、研究は順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に気象行政、地震火山行政、緑化行政の基礎的な考察は進展したが、存在は確認したものの未見の状態の資料もあり、さらに調査途上で新たに収集すべき関係資料も発見したため、継続的な資料調査が必要である。また気象庁関係者を中心にインタビュー調査も引き続き行い、次年度は口述資料の充実化を図りたい。ただし、インタビュー調査の実施は、今後の新型コロナウィルスの影響や動向しだいで関係者との連絡調整の進捗に関わってくるため、十分に注意を払いつつ、慎重に進めていきたい。 他方で分析視角の精緻化も手掛かりを得ることはできたが、このアイディアを具体化させるためにはさらなる文献渉猟とレビュー調査が欠かせない。政治学や行政学の文献のみならず、科学社会学や技術史などの関連文献も引き続き精力的に読み込み、事例分析のための新しい分析視角を構築する。 以上を基に次年度は、分析視角の精緻化や「自然」現象を扱う個々の行政活動に関する概括的な分析を公表しつつ、比較事例分析に着手したい。
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