2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K23200
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
中村 祐太 慶應義塾大学, 経済学部(三田), 助教 (30848932)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | メカニズムデザイン / マーケットデザイン / 社会的選択理論 / 紛争解決 |
Outline of Annual Research Achievements |
私の当該年度の研究では,紛争解決のための手続き(メカニズム)が満たすべき性質を数学的に定式化し,いかなるものがそれを満たすか分析した.この方法は公理的分析と呼ばれ,どのような性質を要求するかが決まれば,用いるべきメカニズムを明らかにできる.ただし,メカニズムに対する要求が多すぎると,それらの性質を満たすメカニズムが存在しなくなってしまう.実際,これまでの既存研究によって,準線形の環境下においては,効率性,個人合理性,耐戦略性という3つの性質を満たすメカニズムが存在しないことが知られている(Green and Laffont 1977). これら3つの性質のうち,個人合理性は,紛争当事者にとって,メカニズムの提案を受け入れることが常に得となることを要求する.裁判外の紛争解決手続きのひとつである調停(mediation)では,各人が調停人の提案を受け入れた場合に限り,紛争が解決することになる.したがって,調停に対し,経済的メカニズムを実装する際には,個人合理性は欠かせない.同様に,紛争解決の手続きが,その場の運に左右されないようにするため,耐戦略性も欠かせないことがわかる. そこで,私の当該年度の研究では,効率性を弱めるアプローチを取った.その上で,弱い効率性,個人合理性,耐戦略性を満たすもののうち,パレートの意味で最も望ましいメカニズムを明らかにした.同時に,Li (2017)の研究以降,盛んに研究されるようになった,メカニズムの「わかりやすさ」に関する分析も行った.特に,Li (2017)により与えられた「わかりやすさ」の概念を改良し,任意のメカニズムの「わかりやすさ」を測るための測度を構築した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
私の当該年度の研究では,「研究実績の概要欄」に記載した内容を1本の論文にまとめた.当該論文については,現在投稿のための最終調整を行っている.その他にも,1本の論文を査読付きの国際学術誌に出版した.こちらの論文では,公共財供給の文脈で有名なクラークメカニズムが,紛争解決を含むより広範な経済環境で応用可能かを分析した.このような進展があった一方で,新型コロナウイルスの蔓延により,打ち合わせ方法の変更を余儀なくされるなど,本研究に対する一定の影響を受けた.しかし,現在ではオンラインミーティングなどの活用を通じ,従来の研究環境を取り戻しつつある.したがって,総括すると,本研究はおおむね順調に進展していると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
私の当該年度の研究では,調停メカニズムと呼ばれる紛争解決の手続きを設計した.その上で,調停メカニズムが弱い効率性,個人合理性,耐戦略性を満たすもののうち,パレートの意味で最も望ましいものであることを明らかにした. しかし,ここまでの研究では,調停メカニズムが,Li (2017)により提唱された概念に照らし,どれほど「わかりやすい」ものなのかが明らかとなっていない.この問題を解決するために,メカニズムの「わかりやすさ」を測る測度を構築したが,これに関し2つの課題がある.1つ目の課題は,本研究が構築した測度に照らし,調停メカニズムよりも「わかりやすい」メカニズムが存在するのかを,明らかにする必要があるというものである.そして,2つ目の課題は,本研究で構築した測度が,どの程度信頼に足るものなのか,理論的,実証的に調べる必要があるというものである.今後の研究では,これら2つの課題を解決していきたい.
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響により,直接訪問による研究打ち合わせが不可になったため次年度使用が生じた.この次年度使用額と翌年度助成金は,オンラインでの打ち合わせに係る物品費として使用する予定.
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