2019 Fiscal Year Research-status Report
学校・民間教育機関・地域社会の協働による不登校・高校中退者の進路支援に関する研究
Project/Area Number |
19K23324
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Research Institution | Aichi Gakuin University |
Principal Investigator |
内田 康弘 愛知学院大学, 教養部, 講師 (50848629)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 不登校・高校中退経験者への進路支援 / 学校・民間教育機関・地域社会の協働 / 学校と地域社会との架橋的機能 / 全寮制高校における持続可能な進路支援実践 / 学校アイデンティティの形成 / 地域社会の一員としてのアイデンティティの形成 / 地域住民としての社会的責任 / アクター間の積極的関与による持続可能性の創出 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、学校と民間教育機関、地域社会の相互連携による不登校・高校中退経験者の進路支援実践に着目し、各アクターの相互連携による持続可能な支援モデルを描出することにある。そのため、不登校・高校中退経験者を受け入れる高校(全日制・定時制・通信制課程)と、民間教育機関(サポート校やNPO法人)、学校が立地する地域社会(地域住民や地域行政関係者)の相互連携による支援実践を対象として調査・分析を進めた。 2019年度は、全日制の全寮制高校YとNPO法人B、地域社会との相互連携によるキャリア支援実践(地域社会でのインターンシップ)を主な調査対象として設定し、当該実践へのフィールドワークを行うとともに、高校Yの1年生を対象としたアンケート・インタビュー調査、そしてNPO法人B職員および当該地域の住民や行政関係者へのインタビュー調査を行った。 調査の結果、全寮制高校Yでの支援実践においてNPO法人Bは、全寮制という特殊な環境下にある高校Yと地域社会とを媒介する架け橋的役割を果たし、学校と地域社会との連携による支援実践の継続を可能にする要因であった。また、生徒にとって当該実践は学校選択(入学・転編入学)時の重要な要素となっており、当該実践を繰り返し経験するなかで、地域社会に属する高校Y生徒としてのアイデンティティを徐々に獲得するプロセスがあった。そして地域住民にとって当該実践は、不登校・高校中退経験者を受け入れる高校Yを擁する地域住民としての社会的責任を果たすという意味合いがあった。さらに地域行政にとって当該実践は、地域社会が直面する教育上の諸課題への対応という意味合いを持っていた。こうして各アクターによる積極的な意味付与が相互に作用しあうことで、当該支援実践の持続可能性が成立している構造的背景を導出した。 今後はこれらの研究成果を、学会発表や論文投稿によって社会的に発信していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、前述した研究目的に沿う形で、通信制高校+サポート校、定時制高校(夜間課程)+NPO法人、全日制高校(全寮制)+NPO法人の公私連携に関する調査と事例分析という3つの研究計画を並行して実施する。そのため、①全国の通信制高校とサポート校(特に東北、中国、九州沖縄地方)、②定時制高校XとNPO法人A、③全日制(全寮制)高校YとNPO法人B、および各地域住民・地域行政に対して訪問調査を行う計画のもと、各学校および民間教育機関に対して調査協力を依頼し、研究の実施許可やアポイントを獲得しつつあった。 なかでも本年度は特に③に注力し、本研究課題の採用が決定されてから翌年2月末までの約6か月間、高校Yの大規模な協力のもとで研究調査を行っていた。学校行事への定期的なフィールドワークに加え、進路支援を担当する教員へのインタビュー調査と1年生全員へのアンケート調査を実施した。また、NPO法人Bの協力のもと、高校Yが立地する地域社会の住民や行政関係者(首長含む)への訪問調査(インタビュー調査)を実施し、期待以上の水準で調査を進められていた。得られたインタビューデータはすぐにテクスト化し、分析に向けて順調にデータ収集・整理を進めていた。 しかし、2020年2月末に出された新型コロナウイルス感染症による学校休校要請を受け、3月に予定していた①・②の学校および民間教育機関へのフィールドワーク、そして③の高校1年生全員に対する計画的な個別インタビュー調査が、実施寸前でいずれも無期限の延期・中止となった。また、感染症の全国的蔓延に伴う図書館の休館が相次ぎ、不要不急の移動に対する強い自粛要請も発せられたことから、同じく3月に実施予定であった、学校の立地する地域社会に関する郷土資料・行政資料等の収集調査が実施不可能となった。 こうした現状を総合的に踏まえ、本研究の進捗状況は「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、全寮制高校Yの2年生(昨年度の1年生)全員に対するパネル調査や保護者へのインタビュー調査をはじめとして、定時制高校XとNPO法人Aによる進路支援にかかわる地域住民・地域行政担当者へのインタビュー調査、全国の通信制高校とサポート校への継続的な訪問調査を実施する計画であった。 しかし、2020年2月末からの新型コロナウイルス感染症蔓延による学校休校、4月上旬の緊急事態宣言発令によって、2019年度のみならず、本年度の調査も現時点ですべて延期となり、研究計画に甚大な影響が出ている。この状況では仮に学校が再開されても、各学校の年間教育活動に著しい遅れが生じていることや、調査対象は対面での支援実践が中心であることから、本年度、各支援実践および研究調査を実施できるのか不明である。 今後、支援実践が従来通り実施され、各アクターの調査許可が得られた場合は、感染症対策を徹底しつつ、訪問調査やインタビュー調査等を順次再開する。しかし、感染症の蔓延が収束せず、予定していた調査がいずれも中止となった場合は、当該状況下における新たな支援実践(オンラインによる支援実践等)の模索と実施について、対面でなく新たにオンライン等を通じた調査を各アクターに依頼する。また、地域社会に関する郷土資料・行政資料等の文献調査を拡大して実施し、学校と民間教育機関、地域社会の相互連携による不登校・高校中退経験者の進路支援に関する基礎研究の実施を目指す。 研究成果の発表について、本年度前半に参加・登壇予定だった国内外の学会やシンポジウムがいずれも延期・中止となり、計画変更を余儀なくされた。よって本年度後半以降の学会等の開催状況に応じて、可能であれば研究発表を行い、不可能となればやむなく研究発表を経ず、昨年度に得られた全寮制高校YとNPO法人Bによる進路支援に関するデータ分析を中心に、学会誌や大学紀要等への論文投稿を行う。
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Causes of Carryover |
前述の通り、2020年2月末からの新型コロナウイルス感染症蔓延による学校休校の影響によって、3月に予定していた学校および民間教育機関へのフィールドワーク、全寮制高校Yの1年生全員に対する個別インタビュー調査等がすべて延期となった。よって、本来であれば当該調査を実施するために使用する予定だった研究費総額約44万円を、次年度へと繰り越すことになった。 今後、各支援実践が従来通り実施され、各アクターの調査許可が得られた場合は、2019年度延期となった各調査および2020年度に予定している各調査の実施ため、当該費用を2020年度の助成金額と併せて順次使用していく(フィールドワークやインタビュー調査のための旅費交通費、インタビューデータの文字起こし費、研究協力者への謝金等)。 しかし、感染症の蔓延が収束せず、2019年度延期となった調査がいずれも再延期・中止となった場合は、当該費用を、各アクターに対するオンライン等を通じた支援状況に関する現状調査のための環境整備費用(例えばビデオ会議アプリの契約費やWebカメラの購入費等)と、学校と民間教育機関、地域社会の相互連携による不登校・高校中退経験者の進路支援に関する基礎研究を実施するための、郷土資料・行政資料等の文献調査費用(旅費交通費や資料の相互貸借費、複写費等)に充てて使用する。
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