2019 Fiscal Year Research-status Report
人物からみる植民地教育―旧仏領西アフリカ教育史再考―
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19K23348
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
谷口 利律 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 助手 (20557318)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 仏領西アフリカ / 植民地教育 / 相互教授法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、旧フランス領の西アフリカ地域に焦点をあて、現代の教育問題のルーツである植民地教育を、従来の植民地教育の政策研究からさらに掘り下げた、植民地教育担当官という「人物」を切り口とした視点から分析する。 植民地の教育にはフランス政府からの統一された指示や政策的影響が及びにくく、政策の実際の運用は本国から派遣された教育担当官の教育理念や能力に大きく影響されてきた。このため本研究では、植民地教育に多大な影響を与えた3名の教育担当官に着目し、その教育理念と教育政策を検討することで、学校教育と実生活との乖離等にみられる、西アフリカの今日的な教育問題を解決する糸口を導くことを目的とする。 2019年度の研究では、3名の教育担当官のうちの1名である、ジャン・ダールの教育思想および、教育実践の分析を行った。ダールの生きた時代のフランスは、奴隷解放にむけて世論が傾きつつある時期であり、フランス占領下の地域に赴いて教育を行うことが積極的に奨励されていた。数々のキリスト教宣教団が、アフリカにおいて、現地の言語を用いた識字教育と布教活動に取り組んだ。そうした時代に生まれ育ったジャン・ダール自身も、フランス統治下にある1810年代のセネガル、サン=ルイにおいて熱心な教育活動を行った。当時フランスで盛んに取り入れられた相互教授法による教育を実施し、今日の西アフリカにおいてもしばしば問題となる、母語による教育、つまりセネガルで話されている言語を用いたフランス語教育を導入した。ダールの教育実践は、西アフリカでの近代学校教育のあり方を大きく模索する試みであったが、ダールの帰国後は、セネガルの植民地教育に進展は見られなかった。西アフリカにおける近代植民地教育の導入は、ダールの信念に裏打ちされたものであり、公教育制度をめぐるフランス本国での方針が未だ確定していない時期であるからこそ可能であった試みともいえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題の研究期間は1年半であり、この研究期間中に、植民地期西アフリカにおいて植民地教育の整備に携わった3名の教育担当官の教育理念や思想を解明することを予定している。これまでの半年間で、第1の研究対象であるジャン・ダールの教育思想と、実施に携わった近代学校教育について分析し、論文として研究成果を発表した。現在は、第2の研究対象であり、1920年前後の西アフリカの教育改革に大きな影響を与えた教育担当官ジョルジュ・アルディに関し、収集した資料のとりまとめを行っている段階にある。これまでの研究の進捗状況は、当初の研究計画と合致しており、研究は順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では、第2の研究対象であるジョルジュ・アルディの教育理念や教育政策に関するとりまとめを続けるとともに、第3の研究対象であるジャン・カペルの教育思想や理念についての解明を行う。ジャン・カペルに関しては、まだ資料の収集が不十分であるため、今後さらに、関連資料の収集にあたり、分析を進める。また、2020年度が最終年度であるため、研究の総合的なまとめとして、3名の教育思想や理念、および、彼らの実施した植民地教育政策を通して、植民地教育の捉えなおしを試みる。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染拡大の観点から国際学会への参加を取りやめとしたため、次年度への繰り越し額が生じた。 なお、繰り越した資金は、次年度において研究資料の購入費に充てる予定である。
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Research Products
(2 results)