2019 Fiscal Year Research-status Report
ホウ素多価イオンを基盤としたホウ素カチオン材料の創出
Project/Area Number |
19K23633
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
田中 直樹 九州大学, 工学研究院, 助教 (00844672)
|
Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
|
Keywords | ホウ素ラジカル / カーボンナノチューブ / キャリアドーピング / 電子移動反応 / π共役系 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、ホウ素ラジカルのもつ高い還元能に着目し、ホウ素ラジカルからの電子移動を利用したホウ素カチオン材料の開発を目指した。 本研究では、4-シアノピリジンにより安定化されたホウ素ラジカルをカーボンナノチューブ(CNT)に作用させることで、CNTへの電子ドーピングを世界で初めて達成し、その電気伝導性が向上する結果を得た。このことは、ホウ素ラジカルがCNTに対して効率的なn型ドーパントとして作用するという重要な知見である。またX線光電子分光法により、得られたCNTドープ膜を評価したところ、その対カチオンとしてホウ素カチオンを有していることが明らかになった。この事実は、ホウ素ラジカルからCNTへの電子移動反応を示す結果である。さらに興味深いことに、用いるピリジン誘導体を選択することで、CNTドープ膜の大気安定性が劇的に変化することを見出した。実際に、4-フェニルピリジンにより安定化されたホウ素ラジカルをCNTに作用させると、一週間以上の大気安定性を有するCNTドープ膜が得られた。理論化学計算からこのホウ素カチオンの電子状態を算出すると、ベンゼン環の導入によりπ共役系が有効的に拡張している描像が得られ、このことがホウ素カチオンの安定化及びCNTドープ膜の安定性に寄与していると考察した。 本成果は、これまでホウ素化反応に用いられていたホウ素ラジカルの新しい利用法であり、半導体工学におけるキャリアドーピング技術の重要な知見であると捉えている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究当初、ホウ素置換基としてπ共役系が拡張したビピリジンユニットを導入し、ホウ素多価イオンの合成を目指した。しかし化合物の不溶性や膜作製が困難なことから研究の方針を変更し、ホウ素ラジカルからの電子移動によるホウ素カチオンの発生及びその利用を目指した。この研究過程の中で、どのように材料化学にアクセスできるか考え、本年度はカーボンナノチューブをターゲットとし、そのキャリアドーピングに主眼を置いた。本年度の成果は主に、(1)ホウ素ラジカルがカーボンナノチューブに対して効果的な電子ドーパントとして作用すること、また(2)そのn型ドープ膜の対カチオンとして、ホウ素カチオンを有していること、さらに、(3)用いるホウ素ラジカルを変更することで大気安定性が顕著に向上することである。これら研究成果は、ホウ素ラジカルの新しい利用法であり、有機合成化学と材料化学の視点からも極めて重要な知見である。以上のことから現在の進歩状況は、計画以上に進展していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度は、ホウ素ラジカルの新しい利用法を開発し、半導体工学に発展する第一歩を踏み出した。そこで次年度以降は、ホウ素ラジカル発生条件を深く掘り下げ検討するとともに、キャリアドーピングの対象をカーボンナノチューブに限らず、P3HTなどの有機半導体や遷移金属ダイカルコゲナイドといった無機材料まで視野を広げ、ホウ素ラジカルによるキャリアドーピング基盤の構築を図る。 ホウ素ラジカルの発生法として現在、ピリジン誘導体による安定化の戦略が用いられている。そこで、(1)種々のルイス塩基を用いたホウ素ラジカルの発生を検討する。具体的には、π共役系が拡張したピリジンやホスフィンなどのルイス塩基を用いる。また(2)得られたホウ素ラジカルを用いて、半導体材料へのキャリアドーピングを検討し、得られた膜のバンド構造や電子状態を調査する。これら化合物の同定や評価は、大学の共同施設を有効的に活用し、研究を推し進めていく予定である。これら研究を通じて、ホウ素化学の発展とともに材料化学への昇華を期待する。
|