2019 Fiscal Year Research-status Report
Computational somatic medicine based on predictive coding: A basic study on Irritable Bowel Syndrome
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19KK0062
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
大平 英樹 名古屋大学, 情報学研究科, 教授 (90221837)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
片平 健太郎 名古屋大学, 情報学研究科, 准教授 (60569218)
木村 健太 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 主任研究員 (40589272)
遠山 朝子 名古屋大学, 情報学研究科, 研究員 (10816549)
齋藤 菜月 名古屋大学, 情報学研究科, 研究員 (60844834)
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Project Period (FY) |
2019-10-07 – 2024-03-31
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Keywords | 生理 / 計算論的心身医学 / 過敏性腸症候群 |
Outline of Annual Research Achievements |
予測的符号化の原理は、脳は内的モデルを構成して感覚信号を予測し、それにより視覚や聴覚などの知覚経験を創発していると主張する。近年、この理論は身体内部の知覚である内受容感覚にも拡張され、脳と身体の機能疾患である心身症の理解に重要な示唆を与えている。本研究は、代表的な心身症である過敏性腸症候群(IBS)を対象としてこの理論を実証的に検討し、計算論的心身医学ともいうべき研究と臨床実践の新しい領域を拓くための基礎研究を志向している。豊富な過敏性腸症候群の研究経験と患者のデータ・ベースを持つクロアチアのリエカ大学と共同し、同疾患患者と健常者を参加者とし意思決定課題を用いた実験研究を行う。その結果から、彼らの内的モデルの柔軟さを評価できる計算論モデルを作成し、過敏性腸症候群をはじめとする心身症の背後に脳の内的モデルの不全があるという仮説を検証する。 2019年11月25‐30日、研究代表者・大平がリエカ大学を訪問し、先方の代表者Mladenka Tkalcic教授の研究室において、今後の研究計画を協議した(この出張は、欧州での別の出張に合わせて行ったため、本研究の予算は使用していない)。そこで策定された方針に基づき、研究で使用する意思決定課題と計算論モデルを作成した。これらの課題と計算論モデルについてクロアチアのスタッフに訓練を行い、予備実験としてIBS患者群30名、統制群として健常者30名にこの課題を施行しデータを収集した。得られたデータからパラメータ推定を行った結果、IBS患者群では、内的モデルを反映すると考えられる強化学習モデルにおける学習率、逆温度と呼ばれるパラメータに健常群と異なる傾向が見られた。また、これらのIBS患者に対しては、ワーキングメモリ、注意、長期記憶などの各種認知機能のデータも取得してあったため、それらの機能と内的モデルの関連を解析している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2019年度には、現地を訪問して研究方針を策定した上で、実験課題とその計算論モデルを作成し、予備実験を行う計画であったが、これらを完全に達成することができた。実験課題と計算論モデルの性能は良好であり、またIBS群と健常者群の差異も傾向として示唆されているため、2020年度から開始する本実験にも期待がもてる。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度には、下記のように研究を進行する。1)2019年度に得られた予備実験データの解析を進め、実験課題と計算論モデルの妥当性を検証する。これらの性能は良好と考えられるが、修正が必用な場合には速やかに行う。2)本実験を開始する。本年度は、IBS群40名、健常群40名程度のデータを収集することを目指す。3)これらのデータの中間的な解析を行った上で、2020年12月に複数の日本人研究者がクロアチアを訪問し、得られた結果について協議する。また、現地でセミナーを開催し研究交流を深める。4)2021年3月にクロアチアの複数の研究者が日本を訪問し、同様にシンポジウム、セミナーを開催して研究交流を深める。 ただし、現在新型コロナウイルスの感染が世界中で拡大している。さらに、2020年3月にはクロアチアの首都ザグレブで大地震が発生し、一部のデータ収集を予定していたザグレブ大学病院も被害を受けた。これらの事情により、上記研究計画が遅れることが懸念される。現地との連絡を密にし、また日本国政府、所属大学の方針も注視しながら、安全を最優先にして研究を進める。
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Causes of Carryover |
2019年11月にクロアチアを訪問したが、欧州への別の出張に合わせて行ったため、本研究の予算を使用しなかった。また2019年度に行った予備実験の費用は、クリアチア側が負担したため、本研究の予算からは支出しなかった。2020年度には、クロアチア、日本の複数の研究者が双方の研究機関を訪問する予定であるので、そのための旅費に使用する。また、2020年度にはクロアチアと日本の双方で実験を行うので、そのための費用に使用する。
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