Research Abstract |
デジタル解析学に関する本年度の研究実績の一つは,研究情報の収集,研究者交流の目的で前年度から引き続き,「デジタル解析学セミナー」を5回開催したことである.取り上げた話題はデジタル渋滞モデル,腫瘍の数理モデル,クラスタリング手法,量子誤り訂正符号,逆超離散化であり,これらのデジタル,アナログの数理モデルに関する議論が活発に行われた. また,個々のプロジェクトに関する研究は以下のとおりである. 研究代表者の山田は,数理生態学における棲み分け現象を定式化した非線形反応拡散方程式の正値定常解の構造,生物の侵入モデルの自由境界問題に関する解の漸近挙動に対する初期値依存性などについて,研究を行い,一定の成果を得た. 分担者の柏木は,精度保証付き数値計算法に関して,コンピュータへの実装を考慮した新たな数値計算手法の開発を前年に引き続き行った.研究対象とした手法は,二重指数公式や複素解析を用いた高速精度保証付き自動積分法,種々のarithmeticを用いた用いた初期値問題の解法などである. 分担者の高橋は,デジタル粒子モデルの初期値問題についてマックス・プラス表現を用いた一般解の導出と相転移現象の解明,超離散プリュッカー関係式を用いたソリトンセルオートマトンの解構造の解明を行った. 分担者の松嶋は,情報源符号化における符号長の漸近評価やベイズ符号の学習理論等への応用研究,グラフやLPを用いた効率的事後確率計算法による通信路符号の復号法やストリーム暗号の攻撃法における理論および応用研究を行った. 以上の研究によりデジタル解析学の個々の側面を支える重要な成果が得られた.また,最終年度にあたりそれら成果を総括してデジタル数理モデルに関する新数学理論を構築するには,多くの課題が残されていることも認識された.これら将来の課題を解決すべく今後も研究活動を継続して行う予定である.
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