2011 Fiscal Year Annual Research Report
神経可塑性及び脳の発達におけるIP3受容体のカルシウムシグナリングの解析
Project/Area Number |
20220007
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
御子柴 克彦 独立行政法人理化学研究所, 発生神経生物研究チーム, チームリーダー (30051840)
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Keywords | IP_3受容体 / シナプス可塑性 / カルシウムイオンチャネル / マクロピノサイトーシス / 成長円錐の退縮 / 記憶・学習 / アストロサイト / チャネルの開口メカニズム |
Research Abstract |
1.神経回路形成に重要な神経突起退縮機構に「マクロピノサイトーシス」という細胞膜回収機構が関与することを証明 マクロピノサイトーシスを特異的に阻害するアミロライド誘導体(EIPA)を用いて、マクロピノサイトーシスを介してSema3Aが成長円錐を退縮させる仕組みを世界で初めて明らかにした。これまで成長円錐の退縮は、「アクチンなどの骨格系タンパク分子による制御」と考えられてきたが、今回の発見は反発性軸索誘導において、「マクロピノサイトーシスによる成長円錐の退縮制御」という新しい分子機構による概念を提唱した(J.Neurosci.2011)(化学工業日報2011.5.19)(日刊工業新聞2011.7.19) 2.神経細胞で発現するカルシウムイオンチャネル「IP_3レセプター」の開口メカニズムを解明 青色と黄色の蛍光タンパク質を融合したIP_3レセプターを作製し、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を利用してこのレセプターの構造変化を光学的に検出する手法を確立した。FRET効率を詳細に解析した結果、IP_3レセプターの開口と不活性メカニズムは独立しており、さらに、一方へ進むと他方への移行が妨げられるという排他的関係にあることを見いだした。これは、通常のイオンチャンネルで見られるような、チャンネルが一度開口してから不活性化状態に移行するというメカニズムとは全く異なる分子機構である(PNAS 2011)(日経BP2011.7.8)。 3.記憶や学習の能力にグリア細胞が直接関与することを証明 生きたままのマウスの脳を使い、グリア細胞が記憶や学習に与える影響の検証に取り組んだ。その結果、神経細胞への栄養補給など補助的な役割しかもたないとされていたアストロサイトが、シナプスでの情報伝達効率を調整し、記憶や学習に影響を及ぼす「シナプス可塑性」に作用していることを突き止めた(J.Neurosci.2011(化学工業日報2011.12.18)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1.反発性軸索誘導において、「マクロピノサイトーシスによる成長円錐の退縮制御」という新しい概念を提唱した。 2.IP_3レセプター」の開口メカニズムを解明した。 3.グリア細胞が記憶や学習に与える影響の検証した。 4.ストレスによるIP_3受容体の機能破壊が神経細胞死による脳障害を引き起こすことを明らかにした。 5.世界最高の検出感度をもつカルシウムイオンセンサー"カメレオン-Nano"の開発に成功した。 6.IP_3レセプターは心不全治療の新しいターゲットであることを発見し、IP_3レセプターを介するカルシウムイオン流出が心肥大の原因である事を明らかにした。 7.心臓形態形成におけるIP_3レセプターを介するシグナル経路の役割を解明し、先天性心疾患の発症機構を究明した。 8.神経細胞の突起が伸びる方向を指示する物質を同定し、再生医療に応用につなげた。 9.抑制性神経伝達を制御する新たな分子メカニズムを発見した。 10.アルコール性急性膵炎の治療に有効なターゲットを発見した。 11.破骨細胞の新たな分化制御機構を解明した。
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Strategy for Future Research Activity |
世界で最初にIP_3受容体のcDNAクローニングやタンパク質解析に成功し、現在、国内では我々がリードして研究をすすめている。海外では我々が報告した論文のデータを元にして実験計画を練っている段階であるため、オリジナリティーは常に我々にあり、常に先行していると考える。新しく発見したIP_3受容体に結合するタンパク質については、海外のグループも重要と考えているらしく、我々を追従する形で研究が進められている。IP_3受容体の機能を修飾する有機化合物の合成も順調に進んでおり、海外からも多くのリクエストが来ている。当初の設問であった、IP_3受容体がどのようにして多様な機能を有するかは、IP_3受容体が単なるカルシウムチャネルでないことである。すなわちIP_3受容体はいわゆるスキャフォールドタンパク質としてSignaling Hubの役割をもっており、約20以上のタンパク質と結合していることである。しかも、各々の細胞で、含まれているタンパク質は異なっているために、細胞毎に多様でユニークな働きを持つものと考えられる。神経以外の組織解析を行い、神経系と他臓器との違いと、共通性を解明する事により、脳神経系研究の為のさらなる研究の発展を目指す
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