2011 Fiscal Year Annual Research Report
蛍光分光を応用した神経細胞の個体脳における同定と聴覚神経回路機構の研究
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20220008
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大森 治紀 京都大学, 医学研究科, 教授 (30126015)
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Keywords | パッチ電極 / FRET / 蛍光分光 / 聴覚 / 神経回路 / 蛍光蛋白 |
Research Abstract |
本研究は第一に蛍光分子標識された神経細胞を脳の深部で同定し神経活動を記録し、さらに神経活動に伴う細胞内での物質動態をFRETにより捉えることを可能にする新しい蛍光パッチ電極計測法を開発して電気生理学研究に応用する事である。パッチ電極法を用いた新しい蛍光計測法としては計画通り実験手技を確立することが出来た。すなわち、蛍光パッチ電極を用いて神経細胞に発現したCa感受性FRET蛋白の蛍光シグナルを脳切片標本を用いて記録出来た。蛍光電極端面を研磨する事で蛍光の捕捉効率が上がり、蛍光パッチ電極で記録出来た蛍光信号のうち25-30%が電極先端で捉えたFRET蛋白起源である事、および電極先端が細胞に接触する事で蛍光検出の効率が上昇することをレーザー連続照射による退色実験で明らかにした。細胞外に投与したKCLによる膜脱分極によって高まる神経活動をFRET-Ca計測と同時に蛍光電極で細胞外電気記録する事が可能となった。さらにFRET-Ca応答を蛍光パッチ電極とccdカメラによる顕微測光法で同時に記録し比較することにより、両者のFRET値に相関があり、蛍光パッチ電極によってもccdカメラと同程度のFRET計測が出来る事を確認した。さらに海馬CA3刺激によるCA1神経細胞のシナプス活動によるCa応答を捉えることにも成功した。現時点では本法は分光器を用いた測光システムである。このことは様々な要因で発生する背景蛍光を波長スペクトルとして識別しより効率の高い検出法を確立するためには有効であったが、時間分解能が低いのが欠点である。今後より時間分解能を高めることで、聴覚神経シナプスにおいて興奮性-抑制性シナプス活動と活動電位の関連をFRETによる膜電位測定および細胞外電気記録により明らかにしたい。第二の目的である聴覚神経核の個体脳での機能解明にこの方法を応用する計画に関しては、幾つかの準備が進むとともに問題点が明らかになった。既に個体脳での聴覚神経活動のパッチ電極による全細胞記録法など基本的な手技は確立した。しかし個体脳への蛍光電極法の応用自体は実現できていない。ここでの大きな問題はFRET蛍光蛋白の脳での発現効率が低いことである。したがって、電極を脳に刺入し電気活動を指標に蛍光蛋白を発現する神経細胞を探す効率が極めて悪い。蛍光蛋白の発現効率を高めるために様々なウイルス発現法、プラスミドの電気穿孔法、リポフェクション法などを現在試している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で試作を試みている蛍光パッチ電極を用いる分光電気計測装置は、当初の計画調書の段階では蛍光蛋白を発現するあるいは蛍光色素を充填した神経細胞からパッチ電極を通して蛍光励起し、捕捉した蛍光の分光データにより特定の神経細胞を同定すると同時に電気記録するだけの計画であった。分子動態を反映するFRET計測への応用は目標として掲げてはいても、検出効率の困難さから、次の段階での目標であった。したがって、順調に装置の開発が進み、単に蛍光シグナルを捉え電気計測するだけでなく既にFRET計測が可能になっている事は、目標を超える研究の進展があったと考えている。しかし、個体脳への応用が計画通りに進んでいないことでもあり、全体としては順調に進展していると自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
既に様々な工夫をすることでパッチ電極を光り導体として単一神経細胞からFRET計測を行う事が出来たので、次は個体脳への応用を第一の目標とする。すなわち、FRET蛋白の個体脳での発現効率を高める工夫をする。時間分解能を高める。そのために光電子増倍管およびロックインアンプを用いたFRET計測装置を作成し神経電気活動との同時記録を行う。分光器を用いたデータを活用して分光領域を決め干渉フィルターの選択を行う。この装置を用いて始めに脳切片標本でシナプス活動の記録を行い、実験システムとして完成させ、その後個体脳でのシナプス活動を記録する。特に閾値下でのシナプス活動を記録するために膜電位感受性のあるFRET蛋白を応用する事と、出力としての神経活動を蛍光パッチ電極による細胞外記録で同時に解析することを試み、神経情報の処理過程を明らかにしたい。
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Research Products
(5 results)