Research Abstract |
本研究では,農業など人為活動の介入の結果,本来自然生態系において必要不可欠なものであった「土壌生態系のホメオスタシス」が損なわれ,土壌酸性化,水系への栄養塩の流出,土地生産性/肥沃度の低下,砂漠化といった環境問題が現出してきた過程を実証的に検討・克服することを目的として,生態系の資源獲得プロセスを記述する速度論的元素動態モデルの構築を行う。平成22年度に得られた成果のうち重要なものを以下に列挙する。 (1)湿潤アジアの異なる母材から発達したOxisols,Ultisolsにおけるプロトン収支を定量評価した結果,熱帯林下における土壌酸性化は,高い純一次生産量を反映し,植物の陽イオン過剰吸収が主要な酸性化プロセスとなる点で共通していた。一方,母材に影響を受けた土壌酸性度の違いによって,植物吸収や有機酸・炭酸の解離による酸の生産・消費量の土壌断面内分布が異なることが示された。 (2)森林の耕地化がもたらす土壌酸性化への影響を評価した結果,耕地化は,土壌有機物の減耗に伴い硝酸化成による酸生産,有機物の無機化による酸消費をそれぞれ増加させる点で共通していた。 (3)生態系として循環・維持できる炭素/窒素比があるように,広い範囲の生態系において一次生産/土壌鉱物風化速度の比も存在し,その値はモル比としておおよそ1000:4~1000:10となった。 (4)農耕地でよく見られるように,炭素循環量に対する窒素あるいは塩基循環量が閾値を上回れば,これらの資源元素は系外へ流出する。これが硝酸汚染,土地劣化(土壌酸性化)である。 (5)炭素循環量の過剰・不足に対し,分解ステージにおける土壌微生物の働きは,バイオマスおよび基質利用効率の増減を通して「緩衝作用」を持つとみなすことができる。 現在これらの結果を速度論的元素動態モデルとして統合中であるが,次年度は自然生態系の農耕地化に伴う変容をより定量的に評価しうるような条件によるフィールド実測を行う計画である。
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