2008 Fiscal Year Annual Research Report
遺伝情報に基づいたツキノワグマ保護管理ユニットの策定
Project/Area Number |
20380098
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Research Institution | Forestry and Forest Products Research Institute |
Principal Investigator |
大西 尚樹 Forestry and Forest Products Research Institute, 東北支所, 研究員 (00353615)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
玉手 英利 山形大学, 理学部, 教授 (90163675)
岡 輝樹 独立行政法人森林総合研究所, 野生動物研究領域, チーム長 (80353621)
石橋 靖幸 独立行政法人森林総合研究所, 北海道支所, 主任研究員 (80353580)
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Keywords | ツキノワグマ / 遺伝構造 / 保全遺伝学 / ミトコンドリアDNA / 系統地理 / 遺伝的多様性 |
Research Abstract |
今年度は,サンプルの収集とミトコンドリアDNA領域の解析を中心に行った. サンプルの収集は下北半島,関東各県から有害駆除の個体の頭部または筋肉片の提供を受けた.提供されたサンプル数は青森県(下北半島)17頭,群馬県22頭,埼玉県6頭であった. 次に,年度当初の時点でサンプルが収集されていたサンプルのミトコンドリアDNA D-loop領域約700塩基の配列を決定し,系統地理学的解析を行った.その結果,国内のツキノワグマは琵琶湖以東(東クラスター)、琵琶湖以西(西クラスター)、四国・紀伊半島(南クラスター)の3系統が存在することが明らかになった。中国・北朝鮮・台湾のツキノワグマと比較すると、これらとは明らかに異なるクラスターを形成していた。このことから、日本のツキノワグマは朝鮮半島を通じて大陸から1回入ってきた後、短時間で3系統に分岐が進んだ。 琵琶湖以東の東クラスターの分布域では38ハプロタイプが観察されたが,そのうちの2タイプは東日本全域に分布しており,残る36タイプは局所的に分布していた.これは祖先的な2タイプが分布を拡大後,局所的な進化が進み,その後遺伝子流動はほとんど行われていないためと考えられる.また,東北の3個体群では遺伝的多様性が低く,氷河期中に小さな集団として維持されたために遺伝的浮動が強くかかり,多様性が減少したものと考えられる.関西以西の西日本(西クラスターおよび南クラスターの分布域)はハプロタイプが各個体群に特異的に分布しており,さらに遺伝的多様性は低かった.西日本では氷河期中でもツキノワグマは広く分布していたと考えられ,この地域での多様性の減少は,近年の孤立・小集団化の影響によるものと考えられる. 以上のように,本州・四国においてツキノワグマは3系統に分離され,さらに各個体群では遺伝的な構造化が進んでいることが明らかになった.
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