Research Abstract |
従来,睡眠と記憶との関連性が指摘されてきた.本研究の目的は,サルを用い,記憶形成の首座とされる海馬の神経活動を覚醒時と睡眠時で比較・解析することにより,霊長類の記憶形成・貯蔵における睡眠の機能的意義とそのメカニズムを明らかにすることである.そのため今年度は,初年度開発したサルの行動(画像),皮質脳波,海馬脳波とニューロン活動(歯状回とCA1領域),眼球電図および筋電図を連続記録するデータ収集システムを用いて,サルが実験室のケージ内で夜間に眠っているときの各種活動を記録し,睡眠ステージと海馬神経活動との相関を解析した. 各睡眠ステージにおける海馬脳波(歯状回およびCA1)をスペクトル解析した結果,その振幅は覚醒時を基準とすると,δ帯域は(ノンレム睡眠)ステージI-IIで1.6倍,ステージIII-IVで2.1倍,θ帯域はステージI-IIで1.5倍,ステージIII-IVで1.6倍に増加したが,鋭波の出現は認められなかった.REM睡眠期では,γ帯域だけが1.2倍に増加したが,げっ歯類で典型的に見られる連続的なθ波の出現は認められなかった.またCA1領域では,ノンレム睡眠時にリップル波(100~200Hzの高頻度の振動)とニューロンの発火が増える傾向があった。以上の結果より,サルではノンレム睡眠期やレム睡眠期に,それぞれ,鋭波やθ波は優位には出現せず,この点ではげっ歯類と霊長類との間に明瞭な差異があることがわかった。一方,サルでもノンレム睡眠時のCA1領域におけるリップル波とモユーロン活動が増加したことから,これらはげっ歯類と霊長類で共通して見られる現象であることが明らかになった.
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